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第29回 ワインと料理 Ⅲ

前号でワインと料理の基本的な合わせ方を紹介いたしましたので、今回は合わせにくい例を紹介してみましょう。



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まず、食事のなかで最も一般的なメニューでありながらワインとの相性が難しいアイテム、それはスープです。なぜならば、それは味わいというよりも食感によるものです。食事においてワインが果たすもっとも大きな役割は口を潤すということです。すでにスープで潤っている口にワインを足しても、味わいが薄まるばかりで美味しさを感じることが難しくなってしまうから。どうしてもコースに組み込まれるているなら、お吸い物を飲み終わるまではワインを口にしないこと。これはワインが美味しくなくなるということよりも、繊細なお吸い物の味がワインによって味わえなくなるのを防ぐためなのです。



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ワインに合わない料理のその2、それは酢を使った料理です。もともとワインには酸味があり、酢の役割を果たしているので、直接口に感じる酢の味が強い料理にはワインが負けてしまうのです。酢漬けのニシン、またはピクルスやケーパーを食べたあとのワインの味わいを想像してみてください。それでも赤ワインを欲しがる人は、ほんの少数だと思います。レモンの味が強い料理も同様です。焼魚や揚げ物にレモンはつきものですが、ワインを飲んでいるときには、レモンをやめて塩だけにするか、控えめにしたほうがワインを邪魔しません。



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食品の中では、フナ寿司がもっともワインとの相性が難しいものでしょう。私も何度か試しましたが、やはり合わせて飲むことができたワインはスパークリングワインだけでした。以前はウニやイクラなどの魚卵もワインが難しいと言われていましたが、スパークリングワイン、特に上質なシャンパーニュやシャンパーニュ・ロゼにはよく合う食品だと思いますのでお試し下さい。



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また卵料理もワインと合わない代表料理のように言われていますが、私はそれほど難しいとは思いません。例えば、シンプルなゆで卵、ハムエッグやオムレツなどのように朝食メニューはもちろん難しいかもしれませんが、アスパラガスやニラなど青い野菜と一緒に調理した卵料理に白ワインは良く合います。またヨーロッパの秋の味覚”白トリュフ”を使った一番シンプルな料理は、ココット皿に割りいれた卵をオーブンで焼き、その上にたっぷりとけずった白トリュフをかけたもので、白トリュフと同じ産地、ピエモンテ産の辛口のワインとは極上の組み合わせです。



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これら以外に、ワインと合わない食品としてよくあげられるものが、チョコレートです。
最初からデザートワインとして醸造された甘口のワイン、たとえばフランスのソ-テルヌなどを合わせても、まだチョコレートの甘味のほうが強く、繊細なワインの風味や香りがひきたつことがないからです。やはりワインはチーズまで…と考えたほうが無難なのか、と思っていたところ、イタリア、トスカーナ地方のチョコレート・メーカーが、チョコレート・ディナーなるものを企画したのです。食事の最初から最後まで、すべての料理にチョコレートを使った料理をだすというおもしろい試みがあり、私もそのディナーに参加しました。料理はもちろん大変ユニークなものでしたが、ソムリエもかなり試行錯誤しながらチョコレートに合うワインを探し当てました。使われたチョコレート自体があまり甘味の強調されたものでなく、カカオ成分のしっかりとしたものであったために、そのディナーは見事に成功だったのです。



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”この食品はワインと合わない”と決め付けてしまうのはとても寂しいことです。しかし、わざわざ合わないもの同士を一緒に口にして、双方の美味しさを奪ってしまうのはもっと悲しいことです。ワインに合わないと言われている食品にも、合わせることができる美味しいワインを見つけるためには、さまざまな経験が必要。その経験を積み重ねていくことも、ひとつのワインの楽しみとも言えます。一番美味しく感じる環境で「食べる・飲む」を楽しむことこそが幸せな食卓なのです。





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