第50回 赤ワインと健康

7月初旬に届いたニュースで、「赤ワイン含まれるレスベラトロールが、座りがちなライフスタイルからくる悪影響を抑える働きがある」と発表されました。



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一日中デスクワークをしている人は仕事が多ければ多いほど、運動不足に悩まされます。私も10年ほど前からスポーツジムに入会し、週に2~3度のジム通いを目指したものの、行くのに時間がかかる、運動をするとその後が妙に疲れる、シャワーの後の支度が大変、などなど、自分勝手でわがままな理由により、行く回数は次第に減ってしまいました。
飲食の仕事に携わっていますので、健康には気を付けていますが、どうしてもお酒や食事のカロリーが高い日常です。扱うものがワインですから、そのワインがこの悩みを懐柔してくれるのならいうことはありません。



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この研究は、多くの「赤ワインに含まれる抗酸化物質レスベラトロールが無重力に伴う運動不足からくる宇宙飛行士の体への悪影響を抑える可能性があるかどうかを調査したもので、レスベラトールは筋肉量や、骨粗しょう症のリスクを抑える骨量を上昇させる働きがあることがわかったそうです。* レスベラトロール(resveratrol):ポリフェノールの一種で、ブドウの果皮にも含まれる天然の抗酸化物質のひとつ。
グラス1杯(240ml)の赤ワインに含まれるレスベラトロールは640mcg。人体に有効な一日に最適な摂取量はまだ明確ではありませんが、サプリメントなどに含まれる量は1カプセルあたり15mg~500mgのものがあります。



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ポリフェノールについては、ここ20年ぐらいの間、様々な機関でその効用がうたわれてきました。『フレンチパラドックス』(ボルドー大学の科学者セルジュ・レナウド博士による造語)が発端で、コレステロ-ルの増加、高血圧、動脈硬化を防ぐ物質ということで注目が集まったのです。ヨーロッパに住む、特に地中海沿岸の住民は高いカロリー、高脂質の食事が多いのにもかかわらず、諸外国よりも心筋梗塞による死亡率が少ないという現象をといたものです。しかしながらその詳細については異論を唱える学者もおり、完全解明されない状態でしたが、昨年になって、フランス西部・アンジュ大学国立保健医学研究所の研究によって、「赤ワインの成分ポリフェノールと女性ホルモン(エストロゲン)が作用して、血管内で一酸化窒素を発生させ、動脈硬化を防いでいる」ことが解明されました。



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女性ホルモンのエストロゲンの受容体アルファを持つマウスにポリフェノールのデルヒニジンを与えると、血管内皮細胞から一酸化窒素が作り出され、血管が拡張され血圧が下がる、というもので、受容体アルファをもたないマススには変化がなかったというものです。ただし、このことによる赤ワインの効用については、「あくまでも適度に摂取するということが絶対条件で、過度のアルコール摂取は心臓病のリスクを高める」とも結論づけています。
今やポリフェノールは認知症の緩和にも効くという説もありますが、先日、オリーブオイルに含まれるオレイン酸が認知症を防ぐとの研究発表がありました。
フランス・ボルドー大学のセシリア・サミエリ博士らがNeurology 2011年6月15日オンライン版に発表した研究で、オリーブオイルが高齢者の脳卒中予防に効果を持つということが明らかになったということです。



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この研究チームは、フランスのボルドー、ディジョン、モンペリエに住む脳卒中にかかったことのない65歳以上の高齢者合計7625人を対象に、平均5年3か月継続で研究を行ったもので、オリーブオイル消費状況において、1.まったく摂取しないグループ 2.中頻度グループ(料理やドレッシングに使用、もしくはパンにつける) 3.高頻度グループ(料理には必ず使用、パンにも毎日使用)という3段階に分け、調査開始後の期間、脳卒中の発症状況との関係を分析しました。 消費されたオリーブオイルはエクストラ・バージン・オリーブオイル。継続期間中148人が脳卒中を発症したものの、脳卒中に関与すると考えられるリスク要因(社会的要因、食事内容、運動状況などなど)を補正した上で、オリーブオイルの消費状況と脳卒中の関係を抽出した結果、1のまったく摂取しないグループに比べ、3の高頻度摂取グループの脳卒中発症は41%低いということがわかりました。



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オリーブオイルは、これまでにも高血圧や、糖尿病、肥満、高コレステロール血症などに予防効果がある、といわれてきましたが、脳卒中に対する予防効果が明確になったことは、現代における高齢者にとってグッドニュースと言えるでしょう。
これらのワイン、そしてオリーブイオイルの効用を考えあわせますと、地中海沿岸地域イタリア、ギリシャ、スペイン、プロヴァンスなどの食生活を見習うとともに、今一度日本料理の良さとワインやオリーブオイルの組み合わせを取り入れることによって、健康的な老後を迎えることができそうです。



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