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第56回 ワイン添加物「二酸化硫黄」

昨年、イギリス食品基準庁が世界的な最高級銘柄として名が通ったあるシャンパーニュメーカーに対し、ラベルに二酸化硫黄の表示が欠落していると指摘、アレルギーを持っている人、または二酸化硫黄に過敏である人はこの製品を飲まないようにとの警告をだしました。このメーカーは警告を受け、ただちにイギリス国内の製品を回収。回収対象は、グラン・キュヴェ、ロゼ、2000ヴィンテージもので、いずれもイギリス国内では120~200ポンドで販売されており、中には1998の特定銘柄のもので1800ポンド(約22万円:執筆日の為替レート)するものも含まれていたとのことです。



皆さんもご存じのとおり、ワインには酸化防止剤が使用されており、日本ではボトルの裏ラベルにはその添加物が表示することが義務付けられています。この酸化防止剤とはすなわち亜硫酸塩のことで、二酸化硫黄(Sulfur Dioxide)を水に溶かしたものです。 SO₂もしくは添加物コードの220という記載で表示されます。なぜワインの製品に添加されるのかといえば、SO₂はワインを有害なバクテリアや酸化による劣化から守ってくれるからです。SO₂は醸造過程で酵母によって自然に発生することもありますが、多くのワイナリーでは、瓶詰め時に使用します。使用しないとワインの品質が安定せず瓶詰め後の変質、腐敗につながります。たいていの場合、添加された二酸化硫黄は半年以内に消失するとも言われており、抜栓してからの開封時間によって空気にふれることによっても消失するものだということです。日本の食品衛生法ではワイン中のSO₂の量を最大で0.035%と規定していますがこれは体重50㎏の人が150年間ワインを1本づつ毎日飲んでも影響がないという程度の数字だそうです。



酸化防止剤の入ったワインを飲むと頭痛が起きるという俗説がありますが、これは添加物=体に悪いもの、という人の意識によって引き起こされるものではないかと思います。科学的に証明されていることではなく、実際はアルコールやヒスタミンによって引き起こされる頭痛や不快感を、SO₂の仕業であると誤解している人が多いのではないでしょうか。



私もよくSO₂と頭痛の関係について質問を受けますが、いつも答えているのは日本と外国との気圧や気温、湿度の違いによるということです。私の場合、渡航先は主にフランスやイタリアが多いのですが、どのような季節に渡欧してもたいてい、日本より湿度が少なくカラッとしています。私自身もひどい片頭痛持ちで、日本で梅雨時期になり雨が多くなると気圧のせいか、頻繁に頭痛に悩まされますが、イタリアで頭痛が起きたことは今までにありません。



またこのようなご質問をされる方のほとんどが日本に輸入されているワインには保存料が入っていて、その国の国内販売ワインには保存料が入っていないと思いこまれていて、フランスで飲んだ時は頭痛がしなかったが日本で同じワインを飲んで頭痛になったので、頭痛の原因は保存料ではないかなどとおっしゃるかたがありますがこれも誤解です。輸入用であろうが国内消費用であろうが、ワインを製品化するときに酸化防止剤を使用することに変わりはありません。私はほぼ毎回、仕事での渡欧ですので事例にはあてはまりませんが、たいていの方はご旅行で渡欧されていると思いますので、日本の仕事から解放され気分がリラックスされており、ストレスフリーの状態ではないかと推測されます。私はこのあたりに日本で起きる頭痛との違いがあるのではないかと思っています。



「無添加」という言葉が一人歩きして、よくも悪くも酸化防止剤がはいっていないほうが安全だというように安易に認識されていることも否めません。消費者意識を利用したマーケティング的に利用されているという場合もあるようです。もちろん酸化防止剤は、ぜんそくのある方やアレルギーのある方には悪影響を及ぼすものでありますが、日本で規定以内の量の仕様で輸入されているワインであれば大きな問題はなく、あくまでも使用量の規制を厳格に守ることが必要です。



では次に、「ビオワイン」いわゆる自然派といわれる、添加物を極力使用しないワインについてもここで触れておきたいと思います。ワインを発酵させる際には、通常、SO₂(亜硫酸塩=酸化防止剤)を使用します。それは果汁の酸化を防ぎ、酵母の活動を抑制するためです。もしSO₂を使用せずに自然発酵が進むと、過剰に酸化が進んで芳醇な果実香が失われ、発酵臭だけが強調されたようなワインになってしまうリスクがあります。しかし、ビオワインの醸造では酸化は自然の生育過程と考え、こうしたSO₂の使用を嫌います。SO2の使用で天然酵母が抑えられ、テロワールの味が損なわれると考えるためです。



そして前段にも書きましたとおり、SO₂は瓶詰めの段階でも使用されますが、ビオワインではこれを嫌う生産者もいます。瓶詰め時のSO₂使用は、瓶内での微生物による二次発酵を防ぐ役割がありますが、使用しない場合は、よほど温度管理された低温でないと、微発泡することがあります。しかしながら、この微発泡や風味を、ビオワインの特徴と位置づけ、その味わいは自然そのものであると認識している生産者、消費者がいます。瓶詰め時のSO₂使用は醸造家によって意見が分かれる所で、SO₂使用で最小限の雑味を消し、果実味をはっきりと出るメリットもあることから、使用を選ぶ生産者も少なくありません。実際フランスの「自然派ワイン」ビオディナミやビオロジックでワインを生産するワイナリーであっても瓶詰め時のSO₂だけは使用するところが多くあります。



タンニンはポリフェノールでできていて、このポリフェノールは抗酸化物質であることから、赤ワインに酸化防止剤を使用しないという選択もありますが、タンニンの抗酸化作用は酸化防止剤ほど強力なものでなく、タンニンが豊富な赤ワインは飲み頃になるまでの時間が長くかかるため、それまでにワインが酸化腐敗してしまうことがリスクがあります。



酸化防止剤に対しての不必要な警戒はもたず、安全基準で守られたワインを、一番美味しい状態で飲みたいものです。






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