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第57回 シャンパーニュとフランチャコルタ

「シャンパン」という言葉がすでに定着し、みなさまの食卓やパーティーには欠かせないお酒になっていますが、以前にも書きましたが「シャンパン」は「シャンパーニュ」の省略言語もしく米国英語の「シャンペン」とまざった通称で、正式な名称ではありません。



フランス、シャンパーニュ地方で行われている伝統的な製法、瓶内二次発酵された発泡性ワイン、これがシャンパーニュで、原産地呼称(アペラシオンドリジーヌ・コントローレ)でCHMAPAGNEシャンパーニュと記載されます。この、厳密に限定された区域と生産に関する規則を設けて(シャンパーニュを守ることにし、それがシャンパーニュの正式名称の承認へとつながったのです。ですから、他の地域、または他国で生産された発泡性ワインをシャンパーニュと呼称することを禁じています。



古代ギリシャ人が“エノートリア・テルス”(ワインを造る大地の意)と呼んだイタリアの、ロンバルディア州ではシャンパーニュ地方で正統な製法を学んだ志高い何人かの生産者が、彼らのテロワール(土地)フランチャコルタ地区でイタリア最高の発泡酒を造りだしたのが1970年代。この地で生産される発泡性ワインを「フランチャコルタ」として呼称しており(原産地呼称をDOCGとして1995年に認定)、Berlucchi 『ベルルッキ』、Ca’ del Bosco 『カ・デル・ボスコ』、BELLAVISTA『ベッラヴィスタ』などがその先駆者として有名です。



使用するブドウはシャンパーニュ地方と似ていますが、シャルドネ種、ピノ・ネロ種(シャンパーニュではピノ・ノワール)が主体の他、シャンパーニュ地方では黒ブドウのピノ・ムニエ種が使用される代わりに、フランチャコルタでは白ブドウのピノ・ビアンコ種が使用されます。もちろん瓶内二次発酵をさせたもので、最低25か月(そのうち瓶内熟成18か月)の熟成期間をもたなければなりません。ガス圧は6バール未満としています(シャンパーニュは5気圧程度)。



個人的な意見ですが、シャンパーニュは細くエレガントなフルートグラスで飲むにふさわしいフェミニンな味わいに対し、フランチャコルタは、赤ワインを飲むような大きなグラス(ボルドー型のグラスなど)で飲むほうが、より味わいが深く感じられるように思います。



ヴェローナでは毎年4月にワインの祭典「Vinitaly」ヴィニタリーが開かれますが、この時のヴェローナ市内のカフェ、バール、レストランではテラスで大きなグラスに注がれたフランチャコルタを飲んでいるお客様が目立ちます。この理由をずっと研究していますが、おそらくガス圧や酸度の高さの違いではないかと思っています。



またシャンパーニュは肉料理との相性としても非常に合わせやすいのですが、魚介類に対して、私の個人的感覚では、フランチャコルタのほうが美味しく感じて飲んでいます。これもフランチャコルタのほうが酸度が引き締まっており、キレのよい味わいだからだと想像しています。



イタリアもフランスも、そして世界中どこの国でも、お祝の特別な時に飲まれるお酒として発泡性ワインが好まれていることは変わりありません。ではどうしてお祝の席上で開けられる飲み物としてなったのでしょうか。



フランク王国の初代王クローヴィスは、ローマを倒してロワール河畔まで進行し、北フランスを制圧してゲルマン族中第一の支配者となったのですが、ランス市に凱旋した際、キリスト教徒の妃の勧めにより、ランスの大聖堂で改宗の洗礼を受けました。西ローマに代わってフランク王国がキリスト教世界を請け負うことになったのがまさにこの時だったのです。以来、フランスの代々国王となるものは、ランスの大聖堂で戴冠式を行ってきたのです。



17世紀からはシャンパーニュの評判は国境を越え、その威光は次第に大きくなり、その後もシャンパーニュは多くの重要な条約締結の際に飲まれてきました。近年の中では*マーストリヒト条約などが挙げられます。シャンパーニュは、大切な歴史的瞬間を強調したいと願う世界中の人々から常に求められる酒になっているのです。各王室の結婚の儀では華々しいその一瞬を飾るお酒として、またスポーツの優勝決定のときには、優勝したヒーローが開ける勝者の証として、シャンパーニュの栓がいつも抜かれています。



*マーストリヒト条約…欧州連合の創設を定めた条約。1991年12月9日、欧州諸共同体加盟国間での協議がまとまり、1992年2月7日調印、1993年11月1日にドロール委員会の下で発効した。協議は通貨統合と政治統合の分野について行われた。



シャンパーニュ・テタンジェ社の現社長の御子息は、まさにこのクローヴィス王と同じ名前を持つ方です。名刺を交換させていただいたときに、「フランスの歴史上、最も重要な王様と同じ名前ですね」とお話ししたら、「名前に負けないように、良いシャンパーニュメゾンを継いでいきたい」とおっしゃっていました。テタンジェ:ピエール・シャルル・テタンジェによって1930年に創業。ガロ・ローマ時代に掘られその後、聖ニケーズ修道院が使用したと言われる同社の地下カーヴはランスの大聖堂の地下に繋がっている。





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