- トップ
- >
- 第58回 カルボナーラに一番合うワイン
第58回 カルボナーラに一番合うワイン
カルボナーラはローマ料理のひとつ、日本でも1990年代イタリアンレストランが急速に増加したときに広がりポピュラーな料理になりました。Spaghetti alla Carbonaraを日本語訳にするなら「炭火焼き職人のスパゲッティ」とでもいいましょうか。炭火焼きをする職人が仕事の合間にスパゲッティを作ると炭の粉がおちてこんな風になる、というわけで付けられた名前だとか。
日本では卵黄、生クリーム、ベーコン、黒コショウをつかったレシピが多いようですが、本場ローマでは、生クリームでのばすことは許されず、またベーコンではなくパンチェッタを、特にこだわりのレストランではグアンチャーレを使用しています。
カルボナーラのレシピでもっとも重要なもの、それは、材料の卵、グアンチャーレ、チーズの3つです。前段でふれたように、カルボナーラに使用する肉はグアンチャーレだとこだわるシェフが多いのですが、グアンチャーレはブタの頬肉を塩漬けしたものです。
脂の質が上等、コラーゲンがたっぷりで、熱を入れてもコクがあるのにさっぱりとした食感です。日本ではプロ用の輸入食材商社が少量扱っているのみで、なかなか一般には出回っていません。
カルボナーラにおけるローマNo.1のレストラン「ロショーリ」のシェフはグアンチャーレも、卵もトスカーナ産にこだわります。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、豚肉やプロシュット、サラミでイタリア一と言われているのが、トスカーナのチンタ・セネーゼ種、なかでもパオロ・パリジ氏飼育の肉が最高とされていますが、まさに、彼が使うグアンチャーレはパリジ氏のもの、おまけに、卵も彼のファームで放し飼いにされている鶏の卵で、これ以上の材料はありません。
チーズはローマ近郊でつくられるペコリーノ・ロマーノという羊乳を使ったチーズです。黒コショウはMARICHAとよばれるマレーシア産コショウの一級品。収穫後24時間以内に手作業で加工するという極めて稀な生産品で、もともとはヴェローナのジャマイカカフェのオーナー、ジャンニ・フラージ氏が世界中から探し出した胡椒の逸品です。
『ガンベロ・ロッソ』(エノガストロノミーの評価本)で、ローマ一のカルボナーラに輝いて以来、ローマっ子はもちろん、世界中から彼のカルボナーラを求めてくるお客様で、“ロショーリ”は常に満席です。
では、カルボナーラにはどんなワインが合うのでしょう。私は自分でも試してみましたし、現地のソムリエやシェフの意見も聞いてみましたが、美味しい組み合わせと一番回答の多かった、そして私自身がそう信じているワイン、それはフラスカーティ。
フラスカーティとはローマ近郊にある小さな村の名前です。16世紀にはローマの貴族たちがこぞってヴィッラを建てたエリアで、法王クレメンテ8世を輩出したアルドブランディーニ家が建てた宮殿もあり、歴代のローマ法王が避暑に訪れます。そのフラスカーティ村で造られる白ワイン、フラスカーティは、マルヴァジーア・ビアンカ種、グレーコ種、トレッビアーノ・トスカーノ種などのブドウ品種が使用されます。
生産量も多く、イタリアワインの歴史上、最も古いワインのひとつで古代ローマ時代から生産されているそうです。輝く麦わら色を呈し、果実味が豊かでフレッシュ感があり、大変のどごしのよい味わいです。3年以上熟成されたものはスーペリオーレと表示がつきます。どんなに素晴らしい生産者のフラスカーティを選んでも、現地なら10ユーロ程度、レストランでも20ユーロぐらいと、手ごろな価格で楽しむことができます。詩人ゲーテは、フラスカーティの酔い心地があまりによいため「楽園にいるようだ」と評したとの言い伝えがあります。

壬生有香の「美食画報」 TOPへ >>
美通信 コンテンツ一覧へ >>