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第59回 ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナに合うワイン

先回はカルボナーラに一番合うワインをご紹介しましたが、今回はそれに続き、トスカーナの代表料理「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」とワインの話しをしたいと思います。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナは、トスカーナ地方の料理ですが、みなさんの知るところのTボーン・ステーキのことです。



ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナに使われる牛は、キアニーナ牛が最高と言われています。キアニーナ牛とは、トスカーナ産のブランド牛、ヴァル・ディ・キアーナという地区で生産されており、体が白く大型の牛です。古くは、2500年ほど前、エトゥルスキ(この地方に住んでいた人たちの呼称)たちも飼育していたというもので、その白さゆえ、ローマ時代には神聖な生贄として神へ捧げられていたとか、ローマ軍の凱旋パレードに使われていた、という伝説もあります。
このビステッカに、地元では必ずキャンティかブルネッロ・ディ・モンタルチーノを合せて飲まれています。時により、この土地の伝統的品種ワインでなくI.G.T.(地域特性表示ワイン)やV.d.T.(テーブルワイン)として登録されたカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラーなど国際品種を使用したワインなども選ばれます。
レストランでビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを注文すると、骨の切れ目で肉を切るので、だいたい一人前が1kg~1.5kgぐらいあり、日本人の女性一人では食べきれません。ステーキの状態は、炭火で外側をこんがりと焼き、中はレアです。もちろん焼き加減を聞いてくれますが、肉の厚みがかなりあるので、ミディアム、と頼んでも中心はほとんどレアになります。ただしレストランによってはよく焼けた石版を持ってきてくれて、自分で気に入る焼き加減にすることもできます。このビステッカを注文するときは、アンティパストやパスタを他の人たちと同じように頼むと到底食べきれませんので、私の知るどんな大きな男性でも、ビステッカにサラダだけとか、アンティパスト一皿とビステッカ、という人が多いです。トスカーナ地方のトラットリアやレストランであればだいたいメニューの中にこのビステッカを用意しています。
ワインに話を戻しますが、トスカーナ地方の地元のワインである、キャンティやモレッリーノ・ディ・スカンサーノなどが手頃な価格で楽しむことができ、
また少し予算に余裕があれば、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、もしくはスーパートスカーナと呼ばれているサッシカイアやオルネッライアなどの高級銘柄を選ぶこともできます。



私は、キャンティならば、普通のキャンティよりも熟成が長く、味わいや骨格がしっかりとしたワイン「キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ」を選んでいますが、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを選べば、より洗練された味の赤ワインを飲むことができます。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、モンタルチーノの丘に約300軒の生産者がありそれぞれに個性が感じられます。
日本のステーキハウスでは、ボルドーワインを好んで飲まれる方が多くいらっしゃいますが、時には、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを模して、トスカーナワインを試されてはいかがでしょうか。



ここで、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナという呼び名についてのエピソードをひとつ紹介しましょう。中世のイタリアでは、ドイツ皇帝側に付くか教皇側に付くかで都市同士の対立がありました。シエナはドイツ皇帝側、フィレンツェは教皇側に付いたため、両都市間では激しい抗争が繰り広げられていましたが、シエナはフィレンツェに大敗、フィレンツェとの関係もここで決定的になったのです。現在もシエナとフィレンツェはなんとなくライバル意識が残っているのか、このビステッカのことも、「キアニーナ牛の産地の本場はシエナ領。本当なら“ビステッカ・アッラ・シエナ”と呼ばなければならないんだ!」と鼻息荒く説教されたことがありました。微笑ましい御国自慢です。









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