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vol.15 梅の香りにさそわれて~ウメのお話


まだ寒さの厳しい2月から3月にかけて、勢いよく咲いている花があります。このころには「花木(かぼく)」といって、葉がまだ芽吹いていない枝に直接つぼみをつけ、花を咲かせる種類の植物が豊富にみられます。もちろん桜もその一種ですが、今回は、桜と対をなすように力強く、香り高く花を咲かせ、私たちの生活にも身近な花木である「梅」についてお話ししたいと思います。



家の庭木や梅林が各地にみられるなど、梅は今ではさまざまな場所でみることができますが、もともとは中国が原産であると言われています。それが8世紀ごろ、遣唐使によって日本にもたらされると、すぐに貴族たちに気に入られました。その証拠に、万葉集の中には100首以上もの歌が梅について詠まれているのです。これは、植物を題材とした歌の中では、「萩」の次に数が多いのだそうです。鶯(うぐいす)とともに詠まれている歌も多いのですが、これは、「梅に鶯」と言って、この組み合わせは取り合わせが良く豪華なもののたとえとされているからです。また、万葉集で詠まれている梅とは、白梅のことであろうと言われています。それが平安時代に入ると、今度は紅梅がもてはやされるようになりました。これは単に流行だけの問題ではなく、奈良時代の日本には白梅しか持ち込まれていなかったのではとみる説が有力となっているようです。そして平安時代に持ち込まれた紅梅が、新しいものを愛でる貴族たちに好まれたのでしょう。あの清少納言の枕草子の中にも紅梅が登場しています。



さてこの白梅と紅梅、二つ揃うと紅白で大変おめでたいので、縁起物として飾られることも多いのですが、この二種の見分け方を皆様ご存知でしょうか?そんなの簡単だ、花の色が白ければ白梅・赤ければ紅梅でしょうとおっしゃる方が多いのではないかと思いますが、実はそうではないのです。枝をポキッと折ると、木肌の内側の組織が見えるようになりますよね。その内側の組織が白いものが白梅、赤いものが紅梅なのだそうです!赤い、と言っても枝の中身の部分ですから、ピンクがかったような色ではあるのですが、比べてみると確かに赤っぽい色をしています。花だけで見ると、白い花がたくさんついている株の中に赤い花をつけるものがあったり、反対に赤い花だらけの株で白い花がぽつんと咲いていることがあるのは、そういったことも関係があるのかもしれません。つまり、枝を切ってみないと本当に白梅なのか紅梅なのかは判断がつかないということですが、だからと言ってむやみに花の咲いている枝を折るというようなことはなさいませんように…



ところで、おもに白梅の実からは、梅酒や梅干を作ることができるので、梅は食用としても昔から珍重されてきました。江戸時代に、各藩が非常食として梅干を作ることを民に奨めたので、梅の実をとることを目的として梅林が各地に作られたのだそうです。その多くが現在まで梅の名所として残り、今でも美しい花を見せてくれています。ちなみに、6月の長雨を「梅雨」と呼ぶようになったのは、梅の実がなるころ(収穫時期)と長雨の時期が重なるからだとか。この雨の恵みを受けて、梅の実はさらに熟していくわけです。そう思うと、梅雨の長雨も立派な役目があるのだと、納得できはしないでしょうか。



ここで梅にまつわる、面白い伝説をご紹介しましょう。「飛梅(とびうめ)伝説」といわれるものですが、これは平安時代の貴族、菅原道真に由来するお話です。道真は、平安京での勢力争いに敗れて、京の都から遠く離れた現在の福岡・大宰府へと左遷されてしまいます。しかし屋敷の庭木たちを愛してやまなかった道真は、庭の木々との別れを惜しんで「私がいなくなっても美しい花を咲かせてくれよ」と歌を詠みました。その気持ちに応えんがごとく、梅の木は慕っている主人の後を追いたい気持ちを強くして、ついに空を飛んでいったというのです。見事に一夜のうちに大宰府にたどり着いたとされるこの飛梅は、今も立派に太宰府天満宮の本殿のそばにそびえています。樹齢1000年を超えるとされる白梅で、根本は3本の株からなる大木です。この飛梅伝説から、菅原道真をまつっている日本各地の天満宮は梅の花を象徴としており、梅の名所となっているところが多いのだそうです。みなさまも、道真公を慕った飛梅を思いながら、観梅にお出かけになってみてはいかがでしょうか。調べてみると、きっとお近くに梅の花を楽しめる場所があるはずですよ。



そんな梅の花をおうちでも楽しみたいというときには、やはりいけばな風に、枝をのびのびといけるのがおすすめです。梅だけで紅白とりまぜながらいけても素敵ですね。ほんのりと香るかぐわしい花の香りを感じて、癒されてみてください。




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