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vol.16 桃の花によせて~ひなまつり~


三月ともなると、すこしずつ春の足音が聞こえるようになってきます。三月三日はひなまつり。女の子の成長を祝うためのお祭りです。桃の節句といわれるほど、桃の花や植物とかかわりが深いのが節句です。今回はこの桃の節句についてお話いたしましょう。



節句のいうのはもともと、日本の暦の一種です。それぞれの節句の日には伝統的な年中行事が行われ、季節の節目となる日です。中でも、桃の節句は江戸幕府によって五節句のひとつに数えられ、大切な行事を行う日とされてきました。五節句としては、桃の節句は正式には「上巳(じょうし、もしくは、じょうみ)の節句」といわれるものです。上巳とはもともと、「三月上旬の巳(み)の日」のことをさしていましたが、のちに三月三日に上巳の節句がおこなわれるようになりました。そして旧暦のその頃は桃の花が咲く季節であるために、転じて桃の節句と呼ばれるようになっていったのです。また、花が咲くというだけではなく、古くから桃には邪気を払う力があると言われていて、さまざまな神事に利用されていました。そこで縁起が良い植物の力を借りようと、桃が選ばれたようです。



上巳の節句は平安時代よりも古い時代に起源をもつお祭りです。これは、京で暮らす貴族の娘たちが、天皇の御所を模した御殿や飾りつけをして遊び、厄除けをして健康を祈っていたのが始まりといわれています。そのうちに武家が天下を取るようになっても、その子女たちによって行われるようになりました。そして江戸時代になると、庶民の人形遊びと節句が結びついて、行事として発展していったのです。現在でも、桃の節句と雛人形は切っても切れない間柄ですよね。



ところで桃の節句といえば、祝い事ですし、縁起の良いお料理が供されます。それぞれのお料理にも意味があるのですが、菱餅やひなあられは、三色が基調となっています。赤・白・緑の三色ですが、それぞれ意味があり、中でも赤い色は健康を祝うための色とされていて、これは桃の花を表しているそうです。



また、昔からひな祭りには白酒が欠かせないものとされていました。もともとは桃が百歳を表す「百歳(ももとせ)」と通じることから、長寿を祈って桃の花を酒に浸した「桃花酒」を飲む風習がありました。花を浸したお酒だなんて、風情を感じますね。ちょっと試してみたい気もします。その後、江戸中期になってからは、白酒が好まれるようになったようです。



ではここで、植物としてのモモについてお話ししましょう。モモは、中国が原産の植物です。古い時期に中東を経由してヨーロッパへともたらされたのですが、途中から誤ってペルシアが起源の植物と伝えられ、「ペルシアのリンゴ」と呼ばれていました。ラテン語のその名が、英語の「ピーチ」の由来となっているのです。和名の「モモ」の語源には諸説がありますが、「真実(まみ)」より転じたとする説や、実の色からみた「燃実(もえみ)」から転じたという説、また多くの実をつけることから「百(もも)」とされたとする説などが有力といわれています。



わが国でも古くは縄文時代後期に桃の存在を示す史料があるのだそうです。各時代において珍重されたようですが、万葉集にはモモもしくはケモモの記載が確認されますので、すでにこの時代にはモモの花を愛でる風習が広がっていたのだと考えることができます。また観賞用だけではなく、薬用、食用としても用いられていました。



現在では品種改良も進み、実を食すのには向かないものの見事な花をつける種をハナモモ、みずみずしく甘い実をつける種を食用のミモモとして区別しています。ただ、ハナモモであっても、モモは大変つぼみが落ちやすい植物です。わずかに触れただけでも簡単につぼみが取れてしまうことが多いので、扱うときには注意が必要です。モモは濃いピンク色の花が印象的ですが、白い花をつけるものとピンク色の(それこそ桃色ですね)花をつけるものがあり、紅白でいけますと、大変おめでたいといわれます。つぼみも丸くてかわいらしく、ふっくらとした花を咲かせるのが特徴です。



桃の節句には、もちろん桃の花だけでも結構ですが、季節が感じられるような花を一緒に生けるのがよいでしょう。決まりがあるわけではありませんが、菜の花が定番でよく使われます。いかにも春をイメージさせる花ですので、桃とともにいけるのが一般的になったのでしょう。ほかにも、コデマリやスイートピー、チューリップなどはかわいらしくて女の子のお祭りとしてもぴったりだと思います。



女性にとって幼いころからなじみの深い桃の節句。節句を通じて季節を感じ、また節句にまつわる植物を通して旬の美しさを取り入れてみてはいかがでしょうか。




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