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vol.29 お彼岸とヒガンバナ


お花屋さんに行くと、色とりどりのお花がそろっていて、楽しい気分になりますよね。また、季節を感じながら屋外で観賞する花には、一味違った趣があるものです。温暖化が叫ばれる今日この頃ではありますが、それでも、四季を持つ我が国だからこそ楽しむことができる季節の情緒があります。そういった季節感を象徴するかのように、行事のその頃に咲く、ということから名前が付けられている花があります。ヒガンバナです。9月のお彼岸の頃に、赤い炎のような形をした、特徴的な花を咲かせます。今回は、大切な年中行事のひとつであるお彼岸と、ヒガンバナについてお話しいたします。



まずは、お彼岸について、ひも解いてまいりましょう。お彼岸は、3月の春分の日、9月の秋分の日を中日として、前後3日間、合せて7日間のこといいます。春分の日、秋分の日はそれぞれ祝日ですが、年によって変動しますのでご注意ください。お彼岸の初日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸の明け(もしくは彼岸明け)」、中日である春分の日、秋分の日を「お中日(おちゅうにち)」といいます。



お彼岸には、ご先祖様をしのび、家族そろってお墓参りをするというのが一般的な過ごし方です。お墓参りをするわけですから、当然仏教と深いかかわりがあるのではないかと思うところですが、どうなのでしょうか。「彼岸」という語の語源は仏教用語で、「波羅密多(はらみた)」の訳であると言われています。生死を繰り返す迷いの世界であるこの世=「此岸(しがん)」を離れて、苦しみの無い安楽な「彼岸」に至る、という意味です。お墓参りの風習など、ほかにも仏教の影響が見られますが、実は、お彼岸は、他の仏教国にはない、日本固有のものなのです。



語源にはもうひとつ説があり、「日願」という語から、とも言われています。これは古来からの太陽信仰や神道に通じています。春分の日、秋分の日には、太陽は真東から出て真西に沈みます。また、昼と夜の長さが同じ日でもあるので、人々は非常に重要な節目として考えました。それが仏教の考え方と結びついて、現在に伝わるようなお彼岸の風習ができたといわれているのです。



春のお彼岸を単に「彼岸」と呼ぶのに対して、秋のお彼岸を「秋彼岸」と呼び区別しますが、お彼岸に供えるぼたもちとおはぎ、どちらが春のお彼岸で、どちらが秋のお彼岸のものか、またその違いをご存じでしょうか?どちらも、もち米とアンコで作られた和菓子であることに変わりはありません。ぼたもちはこし餡、おはぎは粒餡ともいわれますが、これは、実は季節の花にちなんで名づけられているお菓子なのです。春のお彼岸の頃に咲く牡丹(ぼたん)の花から、春は「ぼたもち(牡丹餅)」、秋は、やはり秋のお彼岸の頃に咲く萩の花にちなんで、「おはぎ(御萩)」という訳です。同じお菓子でも、季節によって呼ぶ名を変えるとは、日本人の情緒の深さを感じますね。



さて、お花の話題が出たところで、お彼岸を彩る花であるヒガンバナについて、お話しいたしましょう。ヒガンバナは、多くの別名を持っている花です。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の名は、ご存じの方も多いのではないでしょうか。曼珠沙華とは、天上に咲く花という意味ですが、おめでたい事が起こるときには赤い花が天から降ってくる、という仏教の経典に由来しています。また、あの世と通じる時期であるお彼岸に咲き、墓地などによく植えられているため、「死人花(しびとばな)」「地獄花(じごくばな)」「幽霊花(ゆうれいばな)」といった、あまり縁起の良くない名で呼ばれることもあります。



そして、ヒガンバナの球根には毒があるため、「毒花(どくばな)」「痺れ花(しびればな)」とも呼ばれます。しかし、毒は水にさらすと抜けるので、昔は厳しい飢饉のときには、球根を食用にすることもあったそうです。ですから、田んぼのわきに彼岸花が多いのは、その毒でモグラやネズミから作物を守るためだけではなく、飢饉に備えていたからだとも言われます。ちなみに、墓地に植えられているのは、土葬をしていた頃、その毒でやはりモグラやネズミから守るためであったと言われています。



さらに、その特徴的な花の形から、「天蓋花(てんがいばな)」「狐の松明(きつねのたいまつ)」「剃刀花(かみそりばな)」などと呼ばれたり、花のある時期には葉がなく、葉のある時期には花がないという特徴から、「葉見ず花見ず(はみずはなみず)」とも呼ばれています。



このように多くの別名を持つヒガンバナは、赤い花のイメージが強いかと思いますが、白い花をつけるものもあります。しかしどちらにしろ、ヒガンバナは切り花で出回ることはほとんどありません。畑や庭、鉢植えなどで咲く姿を愛でて、秋の訪れを感じたいですね。




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