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vol.30 秋の行楽・紅葉狩りのルーツをたどる


朝夕の気温がぐっと冷えこむようになると、いよいよ秋本番。木々が赤や黄色に葉の色を変え、街中でも秋の深まりを感じられるようになると、私たちは春の桜と対照的に、紅葉から秋という季節を堪能します。お料理や、絵画のモチーフになるなど、秋を代表するものと言ってもよいでしょう。紅葉を見ると、日本人の心が何か響くものがあるのか、私たちはそこに自然と、深い魅力を感じるものです。今回は、そんな情緒を求めて、紅葉狩りのルーツを探ってみたいと思います。



古くには万葉集にも紅葉の美しさを詠っている歌があるほど、紅葉は長い間私たち日本人の心をとらえてきました。平安の頃には、貴族たち上流階級の楽しみとされていた紅葉狩り。藤原道長は、川に漢詩の船、和歌の船、管弦の船をそれぞれ浮かべ、紅葉した山を遠目に眺めながら楽しんだという記録があります。当時はまだ、庭園や邸宅に紅葉する樹木が植えられていたということは少なく、紅葉を観賞するのはもっぱら山に出かけてのことでした。山に出かける主な目的としては、他に、狩りがあります。諸説ありますが、そこから、獣を捕えるための「狩り」という言葉が転じて、『紅葉「狩り」』と言われるようになったのだと言われています。また、平安の貴族たちは、紅葉した枝を手折り(狩り)、手に乗せて観賞する、という風流な楽しみ方をしていました。そこから紅葉狩りと言われるようになったとの説もあります。



時代が流れ、江戸時代に入り、商人が栄え町人文化が華やかになると、紅葉狩りは上流階級だけのものではなく、行楽として庶民の間にも一気に広がり、ブームを引き起こします。江戸中期にお伊勢参りなどの旅行が流行り、紅葉の名所にもこぞって人々が出かけていくようになるのです。そのころには、現代のお花見のように、紅葉した木の下でお酒やお弁当を持って酒盛りをして楽しんだのだとか。なぜか酒盛りの風習は続いていませんが、その流れを汲んで、現代の私たちにも紅葉狩りが定着しているという訳です。
さて、紅葉という字は「こうよう」とも「もみじ」とも読みますよね。



「こうよう」とは、葉の色が変わることを指しています。赤く葉が変わるもの、黄色くなるもの、褐色になるもの、それぞれを紅葉・黄葉・褐葉といいますが、紅葉とはそのすべての総称です。なぜ色が変わるのか、というメカニズムは科学的に解明されているものの、何のために紅葉が起こるのか、何のために色を変えるように進化してきたのか、は分かっていないのだそうです。ちょっとミステリアスですね。



そして、「もみじ」という言葉ですが、「草木の葉が赤、または黄色くなる」という意味の動詞「もみず」(紅葉ず、文語ではもみづ)に由来するそうです。その活用形「もみじ」が、葉の色が変わることや、紅葉そのものを指す名詞へと変化したのです。では「もみず」の語源は何でしょうか?



有力な説は、染め物の「揉み出づ(もみいづ)」のようです。これにはベニバナが関係していて面白いのですが、紅花染めでは名の通りベニバナの花びらを使います。この花びらには紅色と黄色の2種類の色素が含まれており、これを真水につけて揉むと、まず水溶性の黄色い色素を「揉み出す」ことができます。次に、アルカリ性の灰汁(あく)に浸して揉むと、鮮やかな紅色を「揉み出せる」のだそうです。紅花染めに由来するのであれば、「赤葉」という漢字ではなく「紅葉」が定着したのも納得がいきますよね。



ところで皆様は、「もみじ」とカエデの違いをご存知ですか?言葉の成り立ちからすると、葉が赤や黄色に変わる草木はすべて「もみじ」であって、カエデはその中で代表的な植物の一種である、といえます。植物学上の名は「カエデ」なのです。しかし、特にカエデ属の紅葉が見事なので、カエデをさして「もみじ」と言っているのです。また、「日本大歳時記」(講談社)には、柿紅葉、白樺紅葉、雑木紅葉など様々な植物名を冠した言葉が載っていて、このことからも「もみじ」が草木の種類や変わった葉の色に縛られないことが分かります。「銀杏黄葉」(いちょうもみじ)や、「草もみじ」といって草の種類でも色を変えるものもあります。



ちなみにカエデという語は、葉の形をカエルの手のひらと見立て、「かえるて」がつまってできたというのが定説となっています。紅葉は、「紅葉狩」という歌舞伎や能の題材にもなっています。これは「紅葉」という名の鬼女を退治するという話ですが、あまりに赤の鮮やかなもみじが一面に並ぶ光景には、何か人を惑わせそうな妖しい雰囲気が漂っているような気がしてしまいますね。さあ、この秋、貴方はどちらへ紅葉狩りに出かけますか?




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