• トップ
  • >
  • vol.31 日本でも欧米でも人気、カメリアの花って?~ツバキのお話~

vol.31 日本でも欧米でも人気、カメリアの花って?~ツバキのお話~


カメリアの花というと、フランスの高級ブランド、シャネルのモチーフとして有名ですが、これは特にブランドが好きではないという方でもご存じの方は多いのではないかと思います。これは、創始者ココ・シャネルが愛してやまなかった花をデザインに取り入れたと言われていますが、実はカメリアとはツバキの花のことなのです。ツバキは私たちにとって目にする機会の多い植物ですし、いかにも日本的な花のように思われますが、フランス人のシャネルにも好まれたとは、興味深い話です。そういえば、アレキサンドル・デュマ・フィス原作でヴェルディ作曲のオペラのタイトルも「椿姫」ですよね。デュマ・フィスもフランスの劇作家ですので、ヨーロッパでツバキの花が愛好されていたのだということがうかがえます。



海外で愛されたツバキのお話をまず、させていただきましたが、ツバキは、れっきとした日本原産の植物です。ツバキ、というと一般的には日本の各地に自生するヤブツバキという種のことを指します。寒冷の雪の多い地方ではユキツバキ、屋久島など暖かい地域では赤いリンゴのような果実をつけるリンゴツバキという種があります。日本でも古くから栽培され、江戸時代の頃から品種改良が進められてきましたが、ヨーロッパやアメリカに持ち込まれたものが独自に品種改良され、それらを含めると数千種の園芸品種があると言われています。赤・白・ピンクや、赤に白の斑が入ったもの、一重咲きから八重咲きまで、花の色や形が大変豊富です。花の雰囲気によって、和風にも洋風にも合わせることができます。



赤と白の花があることからおめでたい花として、お正月などのお祝いごとで生けられることが多いほか、厳しい冬でも花を咲かせる生命力や、常緑の葉に神秘的な力があると信じられ、神木として寺社などに植えられることが多い植物です。庭木として、生け垣などに利用されることも多いですね。



ツバキはかなり古くから日本に自生していたと考えられており、古事記、日本書紀にも登場します。万葉集の歌の中にも登場しますが、本格的に観賞用の花として愛されるようになるのは、室町時代からのことです。足利義政のころから、禅の文化やいけばなが普及するようになり、それにともなって、ツバキが観賞用として植樹され、また工芸品のモチーフとしても多く見られるようになります。また、千利休がツバキを茶花として好んで用いていたことから、茶道においてツバキは重要な花となっていきました。現在でも、ツバキは茶花に使われることが多く、茶花の女王とも言われることがあります。



江戸時代には、二代将軍徳川秀忠が愛したことから、ツバキの栽培が進み、「江戸ツバキ」といわれるほど江戸を代表する植物となりました。また、絵画や装飾品や工芸品などにもツバキの柄が好まれました。ヨーロッパには、18世紀の初めに、宣教師カメルによって紹介されました。彼の名にちなんで、英語ではカメリアと呼ばれるようになったのです。ツバキという名の由来は、諸説ありはっきりとはわかっていないのですが、葉が厚いことから「厚葉木(あつばぎ)」が転じたという説や、葉に光沢があるので、光沢があることを表す古語「つば」から、「つばの木」といわれそれが転じたという説などがあります。



ところで、ツバキとよく似た花にサザンカがあります。どちらもツバキ科で混同されやすい花ですので、ここでツバキとサザンカとの違いをご紹介したいと思います。まず、花が咲く時期が違います。サザンカは秋から咲き始めますが、ツバキは春を告げる花ともいわれるように、冬の終わりから春にかけて咲きます。咲き方も違います。花が完全に平たく開くのがサザンカで、平たく開ききることはなく、カップ状に咲くのがツバキです。散り方も違います。花びらがばらばらに散るのがサザンカで、花首からまとめてボトッと落ちるのがツバキです。このように、花首が落ちてしまうことから、お見舞いには向かない花と言われています。



ツバキは観賞用はもちろん、種子からとれる油がツバキ油として、食用・化粧油として古くから用いられてきました。グルメで知られる徳川家康は、ツバキ油で揚げた天ぷらを好んでよく食べていたのだとか。古くから、さまざまな用途で楽しまれてきた、ツバキ。いけばなの世界でも、基本要素と言われる「線・色・塊」を一枝でも表現することのできる素材として、さまざまな流派で使われています。私も、基本に戻り自分を見つめなおしたいと思うときにはツバキを生けたくなります。長く愛されてきた植物だからこそ、改めてその魅力を引き出し、大切にしていきたいものですね。




・野邊愛子オフィシャルサイト

【PCサイト】 http://aikonobe.com

・お問い合わせ
aikonobe.com@gmail.com




美人花壇 TOPへ >>
美通信 コンテンツ一覧へ  >>