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vol.34 自分のことが大好き?スイセンの花


香りのよい花はいくつかありますが、日本ならではの行事に香りを添えてくれる花と言いますと、お正月のスイセンではないでしょうか。我が家でも、祖母がスイセン好きだったというのもあって、私が小さいころ、季節になるとスイセンが生けられていたのを、透き通った香りとともにおぼえています。そのせいか、私にはちょっと懐かしい香りに感じられるのですが、皆様はスイセンの香りはお好きでしょうか?



実は、スイセンは世界中で親しまれている植物の一つで、ヨーロッパでは昔から品種改良が盛んに行われてきました。なかでも、スイセンを国花のひとつとしているイギリスでは300年も前から品種改良がおこなわれていたとの記録があるほど、盛んに栽培されています。現在では、50種ほどの原種と1万種以上もの園芸品種があるといわれているほどなのです。



スイセンは、そもそもスペインやポルトガルを中心とする地中海の沿岸地域、北アフリカまで広がる広大な地域が原産の植物です。それがシルクロードを経て中国へ伝わり、わが国へは中国からもたらされたという訳です。
さて、スイセンというと私たちに一番身近なのは、日本水仙かもしれません。お正月に飾られるスイセンは、日本水仙です。冬に咲く水仙で、昔からいけばなの花材として好まれてきました。いまでも、流派によっては、葉の枚数や茎の高さなど、昔からの伝統を守る生け方をもつ花の一つとされています。それほど、昔からスイセンが日本で好まれてきたということでしょう。



現在、日本水仙と呼ばれている種の水仙は、室町時代から安土桃山時代のころ、中国から伝えられたと言われています。水仙の種類の中でも、より香りが強いと言われるのがこの日本水仙です。日本水仙は皆様ご存じのとおり、3センチほどの花が一本の茎から複数咲く、「房咲き」という咲き方をしますが、これは水仙がヒガンバナ科であるとお伝えすると、納得していただけるのではないかと思います。



反対に、ラッパ水仙をはじめとする西洋のスイセンは、一本の茎に一つの花をつける「一本咲き」ですが、花が10センチほどにもなるものがあるなど、華やかな印象をうけるでしょう。花の色は、スイセンというと白や黄色を思いうかべられるかと思いますが、西洋スイセンはオレンジ、赤、ピンクなどのものもあり、2色咲きのものも多いそうです。



イギリスの詩人、ワーズワースも「スイセン」という詩を詠んでいますが、西洋で古くからスイセンが親しまれてきたことを証明するように、ギリシャ神話にはこの花にまつわる伝説がありますので、ご紹介いたしましょう。



~~あるところにナルキッソス(ナルシサスとも)という美しい青年がいました。彼は大変美しかったので、さまざまな相手から言い寄られていましたが、高慢にもそれをはねつけていました。そのためある娘が彼を呪い、その呪いを聞き入れた復讐の女神ネメシスによって、ナルキッソスは水鏡に映った自分自身の姿に恋をしてしまいます。水の中に映った自分の姿は、もちろん彼の想いに応えることはありません。彼はその悲しみのあまり死んでしまいます。そしてその体は、水辺に咲くスイセンの花に変わったのでした。ですからスイセンの花は、水辺で自分の姿を覗き込むかのように咲くのです。~~



余談ですが、自分のことばかり気にしている人のことをナルシストというのも、このナルキッソスの伝説からなのです。スイセンの英名・学名は、彼の名を取ってNarcissus(ナルキッソス)といいます。和名のスイセンという名は、中国で呼ばれていたものがそのままわが国にも伝わってきたと言われています。水辺を好み、美しい花の姿と芳香は仙人のようだと、この植物を「水の仙人」にみたて、そこから水仙と呼ぶようになりました。



さて、スイセンは、球根などに薬効があるため、薬としても使われてきましたが、茎などには毒性がありますので、おうちに小さなお子様やペットなどがいる方は口の中に入ることのないように注意して扱うようにしてください。葉の形が似ているので、ニラと間違えて食し、中毒になったという例も報告されています。しかし、扱い方さえ気を付ければ、心配することはありません。



さて、スイセンを切り花として生ける場合には、スイセンだけで生けたほうが長持ちするようです。これは、スイセンの茎から他の花をダメにしてしまう液が出るからです。もし、他の花と一緒に器に生けたいというときには、水切りをしたスイセンを24時間以上別の器にいれておき、生けなおすときにはさらに切り戻さないようにしてください。



寒いころに春を呼ぶスイセン。ぜひ、みなさまも香りと愛らしくもナルシストな(!?)花の姿を楽しんでみてはいかがでしょうか。




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