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vol.38 ひかえめに春を告げる花~スミレのお話~


春の野の花として知られる、スミレ。2月から4月ごろまでの間、野山や畑などでも多く見られますが、比較的生命力が強いので、都会のアスファルトの隙間から紫色の小さな花を咲かせているのを見たことがある、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。その小さく可憐な姿から、誠実さやひかえめであることの象徴として古くから愛されてきた花です。今回は、そのスミレについてお話しいたします。



日本でスミレ、といいますと、一般的に濃い紫色の花をさします。その辺りでごく自然に生えているスミレは、タチツボスミレという種類のものが多いのですが、わが国に自生しているスミレには60種ほどの品種があると言われており、本州から九州にかけて、広い地域に分布しています。古くから日本に自生していた植物だったようで、万葉集の中にもスミレの花を詠った和歌が登場しますし、日本画の題材としても描かれてきました。「スミレ」の名の由来は、諸説ありますが、大工道具である「墨入れ」が転じたのではないかと言われています。墨入れとは、木材などを加工する際に目印として線を引くための墨を入れるものですが、この墨入れがつぼのような形をしており、スミレの花も横から見ると墨入れの形に似ているということから名付けられたようです。



スミレの仲間は日本だけでなく世界にも広く分布しており、世界中で400種ものスミレの仲間が存在しています。特にヨーロッパでは、ニオイスミレという香りの強いスミレが古代より愛好されてきました。古代ギリシャでは、春先に咲くこの花が春を呼ぶということで、よみがえる大地の象徴とされていました。また、アテネの紋章にはスミレの花が使われており「スミレの花冠で飾られた都市」といわれるほど、アテネの町中にニオイスミレが咲き誇っていたと言われています。



このニオイスミレはナポレオンに愛された花としても有名です。彼の最初の妻であったジョセフィーヌがスミレをこよなく愛していたことから、ナポレオンもスミレを愛好するようになったのだとか。彼はジョセフィーヌのお墓にスミレの花を植え、自分の首飾り(ロケット)の中にその花を入れていたとも言われています。ニオイスミレといわれるほどですから、その香りはジョセフィーヌだけでなく、フランス王妃マリーアントワネット、ハプスブルク家の王妃エリザベートらをも虜にしていました。バラやラベンダーに並び、香水の原料花としてもスミレは利用されているのです。



また、エリザベートの大好物として知られているのが、スミレの砂糖漬けです。そこからウィーンでは、今でもスミレのキャンディーや砂糖漬けがお土産として人気があるそうで、私もウィーンを訪れた際に買い求めました。ヨーグルトやバニラアイスクリーム、紅茶などに入れると、ふわっとスミレの花の香りがひろがり、何とも贅沢な気分になります。スミレの花が食用とされているとは驚きでしたが、ヨーロッパでも日本でも、食用だけでなく、薬草としても用いられてきたそうです。



皆さまご存知かと思いますが、スミレは英語ではバイオレットと言われます。また、バイオレットは紫色を表す語でもあります。日本語でもすみれ色といえば紫色を指しますが、フランス語でもスミレの花をヴィオレット、紫色のことをヴィオレといい、スミレの花=紫色ということが定着しているほど、愛されている花だということがうかがえます。欧米では少女の瞳の色をスミレの花にたとえることもあるということで、なんだかロマンチックですよすね。



また、スミレの仲間で私たちの身近にある花としては、パンジーやビオラがあります。パンジーは19世紀初頭にヨーロッパで品種改良によって生まれた花です。切り花でも出回っていますが、初心者にも育てやすく花の時期が長いことからガーデニングで利用されることが多いように思います。パンジーとビオラの違いは、とよくご質問を受けるのですが、最近は品種も多く境目があいまいになってきています。一般的には、花の大きさが5~6センチ以上のものがパンジー、それ以下のものがビオラとされています。また、見た目が豪華なのがパンジー、かわいらしいのがビオラという、おおまかな分け方もあります。



パンジーという名は、フランス語の「パンセ」という語に由来します。パンセとは、フランスの思想家パスカルの著書のタイトルでもありますが、思想や思考という意味があります。パンジーの花がうつむきがちに咲く様子が、人が物思いにふけっている様子に似ているということからつけられたようです。かわいらしくけなげに咲いてくれるスミレ。パンジーやビオラだけでなく、日本のスミレも鉢植えなどで楽しむことができます。種が飛ぶので、一度植えればまた同じ場所に咲きますから、気軽に楽しんでいただけると思います。ぜひお試しになってみてください。




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