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vol.35 ボタニカル・アートの展覧会へ
花を観察するようにじっくり見ると、普段見ている花のイメージと全く別なもののように感じられます。
たとえばチューリップの花びらは裏と表で色や質感が違うし、花弁の中のおしべやめしべはそれだけ凝視すると奇妙な作り物のようにも。
でもめしべやおしべがなければ、あの愛らしい花の表情は完成しません。
パーツパーツは奇妙なのに、花としてまとまると美しいオブジェのよう、
植物って本当に不思議!
花の不思議な魅力を芸術の世界で表現したのが、ボタニカル・アート 植物画です。
その展覧会がパナソニック 汐留ミュージアムでただ今開催中と聞いて、
早速、出かけてきました。
世界遺産キュー王立植物園所蔵
イングリッシュ・ガーデン
英国に集う花々

キュー王立植物園のパーム・ハウス
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
この展覧会は、英国王立キュー植物園所蔵の数々の植物画が年代別に整理され、
時代背景とともにボタニカル・アートの魅力や歴史が楽しめる構成になっています。
展示作品の写真を特別にミュージアムからお借りして、
ご紹介させていただきます。
さて、植物画はいつの時代に誕生したのでしょうか?
ルネッサンスとも言われています。

バシリウス・ベスラーの委託による《オオカンユリ》(ユリ科)(『アイヒシュテット庭園植物誌』より)1613年、
キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
ボタニカル・アートには実物と同じ大きさに描くという決まりごとがあるようです。
植物図集として最も古いこの「アイヒシュテット庭園植物誌」は、
その決まり事を守るためか、大きさが50センチ四方もある大図集です。
白黒ですが、かえって線1本1本が躍動するようで、生きている印象さえ感じさせます。

セバスチャン・シューデル《マルタゴン・リリー(ユリ科)とクロアザミ(キク科)、他》(『カレンダリウム』より)
17世紀初頭、キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
マルタゴン・リリーはヨーロッパ中部、南部からシベリアに分布するユリの種類です。
クロアザミはヨーロッパに多く分布する矢車草です。

ウィリアム・モリス《チューリップ》1875年頃、個人蔵
図鑑的な役割を担っていた植物画も時代を経るにしたがって、
アートの要素が強くなっていきます。
19世紀、イギリスでモダンデザインの父と言われた、
ウイリアム・モリスのテキスタイルです。
産業革命とともに工芸品が機械生産されるようになり、
ボタニカル・アートは日常の生活の中に入っていきます。
イギリスというと、確かに花柄のイメージがありますね。
英国映画を見ていると、花柄の壁紙の素敵な部屋がよく出てきますが、
これは女性にとって不滅の憧れのインテリアですね。

レイチェル・ペダー=スミス《マメ科の種子を用いた作画》2004年、キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
そして、現代にも多くのすばらしい植物画の作家の方々が活躍していらっしゃいます。
伝統的な植物画の手法を受けついでいる作品もあれば、
このレイチェル・ベター・スミスの作品のように、グラフィックデザイン的な水彩画もあります。
この他にもヴィクトリア時代の女性旅行家マリアン・ノースの絵画が展示されています。
恵まれた環境にあったマリアン・ノースは若いうちから世界を旅し、多くの作品を残しました。
世界中の植物とその周辺の景色を精密に描き続け、その生涯をボタニカル・アートの制作に捧げています。
一口に植物画と行っても、画家の視線によって表現の違いを強く感じました。
また植物が時代の中で、漢方などの医学はもちろん、建築や貿易などさまざまな分野で影響を及ぼしていたことに驚かされます。
展覧会では時代背景とともに植物画の歴史が丁寧に解説されています。
歴史の中の植物の役割の変化とボタニカル・アートが相互に関係しあい、
多くの素晴らしい作品を生んできたことがよくわかります。
美しい花で癒され、また新しい発見もありの魅力あふれた展覧会です。
ここで、うれしい情報を。
このレイチェル・ベター・スミスによる特製ぬりえを庭にちなんだ、
1月28日(木)、2月28日(日)、3月3日(木・桃の節句)、3月8日(火・ミツバチの日)に来館者全員にプレゼントがあるそうです。(おひとり様一枚)
どこもかしこも花であふれる春、待ち遠しいですね。
暖かいミュージアムで一足早い春を感じながら、
植物の歴史に思いをはせるのもいいですよ。
春の花を愛でるとき、じっくり花を観察してみてください。
想像を越えたものが花弁の中に隠れているかもしれませんよ。
パナソニック汐留ミュージアム
イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々 展
会期は2016年 3月21日 まで。
http://panasonic.co.jp/es/museum/
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