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第14回甘口ワインについて

今回は特別な自然条件のもとにできる貴重な甘口ワインについてお話します。

貴腐ワイン
"貴腐"はその名の通り(葡萄が)貴く腐ると書きますが、これは特殊な天候条件のもとにだけ発生する「ボトリティス・シネレア」という菌が繁殖した葡萄の状態を表す言葉で、葡萄の表面が菌糸におおわれて腐っているように見えることからつけられた名前です。



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未熟な葡萄や花、葉に菌が繁殖するとただ単に腐ってしまい、病気を引き起こすだけですが、優れた状態で完熟した葡萄にこの菌がつき収穫のその日まで天候に恵まれると、葡萄の果皮の表面を覆うワックス層から菌糸を入り込ませていき、果皮に無数の小さな穴を開けたような状態になります。この葡萄が午後の乾燥した空気によって水分が果皮の穴から蒸発し、次第に果汁が濃縮していきます。この状態の果汁を搾ると糖分が30-40%もある甘い果汁になり、これを発酵しても、糖分が多すぎて発酵自体も起こりにくくなり、発酵が途中で停止してワインに大量の糖分が残るのです。このように、自然が成せる神秘の技によってできた甘口ワインを「貴腐ワイン」と呼びます。貴腐ワインでは、フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケン・ベーレン・アウスレーゼー;、ハンガリーのトカイ・アス・エッセンシアが"世界三大貴腐ワン"として有名です。中でも、ソーテルヌの「シャトー・ディケム」は最高峰の甘口ワインです。100年の寿命があると言われていますが、そのエレガントで甘く華やかな香りは世界中のワイン通を魅了し続けています。ヨーロッパのオークションでもっとも高価な値段がつけられているのもこの「ディケム」なのです。



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遅摘みワイン
通常の収穫から4-6週間、収穫を遅らせることによって葡萄はさらに糖分が増し、余分な水分が抜けてエキス分の濃い葡萄として収穫できます。ボトリティス・シネレア菌が付着していなくても完熟したまま木にそのままつけておき、乾燥した天候が続くと干し葡萄の状態になります。このような葡萄は、やはり果汁が濃縮されていますので、そのまま搾って発酵させると甘口ワインになります。これを"ヴァンダンジュ・タルディヴ(遅摘み)"の甘口ワインといいます。フランス・アルザス地方のリースリングやゲビュルツ・トラミネール、ミュスカなど、またドイツのシュペトレーゼ、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼーなどもこの中に入ります。



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アイスヴァイン
遅摘みワインを造る過程で猛烈な寒波がやってくると葡萄が木についたまま凍ってしまうことがあります。この凍った葡萄を収穫して搾ると水分が凍っているために凝縮された果汁がとれます。これを搾ってワインにしたものをアイス・ヴァインといいます。ドイツのアイス・ヴァインがもっとも貴重で有名ですが、最近ではカナダ、アメリカ合衆国、オーストラリアなどでも造られています。いずれも限定された特殊な天候条件のもとでしか造ることができませんので、大変に貴重なワイン、結果的に価格も高いものが多いといえるでしょう。



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一方、イタリアでは収穫後の葡萄を房ごと陰干しすることによって乾燥させ糖度を高めてからワインにする甘口ワインがあります。これは次のワインです。レチェート・パッシート、ヴィンサント


収穫後の葡萄を自然な条件で、または陰干しして乾燥させることによって糖分を高めてから発酵させて甘口のワインに仕立てることをパッシート、もしくはレチョートといい、主にイタリアで昔から伝統的に行われている醸造法です。パッシートはシチリア、パンテレッリア島のモスカート・パッシート・ディ・パンテレッリアが、レチョートではヴェネト地方のレチョート・ディ・ソアーヴェやレチョート・ディ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコが有名です。またトスカーナ地方のヴィンサントと呼ばれるワインも甘口ワインです。こちらは10月半ばから11月の半ばごろ通常より1ヶ月ほど遅く収穫した葡萄を丁寧に選別したあと陰干しをして12月後半クリスマスのころまで乾燥させてから醸造するワインで、"聖なるワイン"とも呼ばれており、一般的にはビスコッティなどと一緒に楽しむデザートワインです。





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