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第15回デカンタージュについて

デカンタージュの効果
年代ものの古い赤ワインやポートを飲む前に、澱(オリ)を取り除くためワインをガラス(またはクリスタル)の容器に移し替えることを「デカンタージュする」といいます。レストランで、高級な銘柄のワインが銀製のバスケットに入っていて(これはカラの状態)隣にクリスタルのデカンタに入れられた赤ワインを見たことがありませんか?
古いワインには熟成による澱がたまっていて、デカンタをしないでボトルから直接グラスに注ぐと、ボトルが傾くたびに澱が舞い上がり、澄んだ上澄みのワインと混ざってしまいます。ワインによっては、その澱が非常に細かいので、とりのぞきにくいものもあります。これは本来そのワインが持つ艶やかな舌触りや風味を損なうことになりかねません。そういうわけでデカンタージュをするという意味がありますが、これ以外にもデカンタージュの効果があります。それは、ワインを空気にふれさせて酸素をとりこみ味わいをよりまろやかにする効果です。また、優美なデカンタに移し変えることによって赤ワインの色をさらに美しく愛でることができます。
コルクで栓をされたボトルの中から広々とした容器に移し替えられると、ワインの液面が空気に触れる面が広くなり、急激に酸素とまざりあうことになります。その結果、味や香りが開き、芳醇さをかもし出すといわれています。時には澱がなくとも、若すぎる頑強な赤ワインや、アロマが複雑で骨格のしっかりとした白ワインにさえデカンタージュをするサーヴィスも多くみかけます。



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いつデカンタージュしたらよいか?
熟成を経たワインは、デカンタージュをして少したつとボトルを開けたときよりも、さらに芳香が広がり味わいもまろやかになるものです。若いヴィンテージのワインでもデカンタージュをすることにより「攻撃的な味わい」から、飲みやすい味に変わるものも少なくありません。
それでは、何時間前ぐらいにデカンタージュをするのがよいのでしょう?
一般的にいえば、フランスワインは飲む直前にデカンタージュするのがよい、という説が有力です。ただしこれはボルドーワインに限ってで、ブルゴーニュワインをデカンタージュするソムリエは少ないと思います。たいていのブルゴーニュワインは、ボルドーワインより澱が少なく味わいがデリケートなためボトルのままサーヴィスをしながらゆっくり芳香を開かせます。そういう意味では、直前のデカンタージュは、ワインを少しだけ空気に触れさせるという意味と澱を取り除き味わいをクリアにするということが主な目的といえるでしょう。一方ボルドーワインを"クラレット"と呼び何世紀も前からボルドーワインを愛でてきたイギリス人たちは、グランヴァンなら4,5時間前にデカンタージュしておきます。わざと空気に触れさせる時間を長くとり、味わいをまろやかにする方法です。しかし、この方法はすべてのボルドーワインに適用するものでなく、良質で、そしてグランド・ヴィンテージでタンニンが豊富にあるしっかりとしたワインの場合にのみ作用するものです。



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香りも貴重な財産
しかしながらここで注意をしなければならない点は、デカンタージュは良い点ばかりでなく、ワインの状態をきちんと見分けデカンタージュをするか否かを決めることができなければ、逆に、 香味のバランスをくずしたり、オールドヴィンテージのワインがゆえにデリケートなバランスを損ない、貴重な香気成分を空気中に逃がしてしまうということもあります。ボトルをあまり早く開けすぎると貴重な芳香はさっさと放たれてしまい失うものが大きいといった結果になります。



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よいソムリエは抜栓をしてワインの風味、状態を確かめてからデカンタージュをしたほうがよいかを判断します。お客様の好きなワイン、そしてあらかじめ指定されていたワインがデカンタージュしたほうが望ましい、とはっきりしている場合は2,3時間前にデカンタージュをしてお客様の到着までに適温にし、落ち着かせておくことができます。またいかなる場合にも、レストランのテーブルについてからオーダーされたワインについては、デカンタージュするか否かをお客様の指示に従います。香りもワインの値段に含まれているのです。素晴らしい熟成を経て立ちのぼる優雅な香りは、一度空気中に放たれてしまうと二度とデカンタやグラスの中には戻らない貴重なものだからです。ワインに強い好奇心をもっている人、ワインを愛する人は香りがゆっくりと変化する時間そのものを上手に楽しむのです。





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