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第16回ワインの表現用語

ワインブームのおかげか、ソムリエがテレビに登場することも多くなりました。ソムリエの仕事はワインの高い安いなどの値段を当てたり、うんちくを語るのが本業ではありません。本来は自分の勤めるレストランの味をお客様に一番美味しい状態で味わっていただくために、シェフがつくる料理に合うワインを、お客様の好みや季節に応じていつでもおすすめできるよう、ワインカーヴの管理をし、お客様に誠意を持ってサーヴィスをつとめることが仕事です。ところが昨今のグルメ番組では、ソムリエは難しい言葉や、日ごろ私たちが感じたこともないような表現を使ってワインのうんちくを語る黒服を着た堅苦しい人達というイメージがあるようです。これらの原因のひとつに、テレビに取り上げられるようなある一部のソムリエ(スター性のある、といってもよい)たちは、本場フランスで仕込まれたプロフェッショナルな表現法をそのまま使ってしまっているからともいえます。
ただし、番組制作側の意向でわざと難しく表現するよう依頼されているのかもしれません。



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ワインテイスター(つまりソムリエ)たちは、日頃からあらゆるものの香りや感触に関心を持っています。例えばパンを作る時であるなら、イースト菌が発酵される時の香り、バターが混ざり溶けていく時の香り、オーブンの中でパンが焼けた時の香りなど、これらの一つの流れの中にも幾種類もの表現できる香りがあります。これらを正確に自分の中に記憶させ、必要な時すぐに思い出すことが出来なければなりません。なぜならワインの中で、香りは、ブドウ品種を特定するのに最も重要な事項だからです。
その次に味わいがあります。これも自分だけがなんとなくこのような感じ…とおぼろげに分かっているだけではダメです。人に説明をした時、明確に伝わらなければ意味がありません。自分にしか分からない言葉や表現では、人に伝えることが出来ません。その意味を理解し、説明をした時、飲んでいるワインと感覚的に結びつかなければならないからです。そういった意味で、プロのソムリエは、毎日何気ない小さなものにまで注意を向け、関心を寄せて生活していると言えるでしょう。しかしながら、専門家だけがうなづけるような表現でなく、身近に感じられる用語で説明を受けたなら、もっとワインに興味を持ち、好きになることだってあるはずです。レストランでのワインをもっと楽しんでいただくために、ここで、知っておくとソムリエの話がわかりやすいといった表現用語をご紹介しましょう。



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アルコール ワインには必ずアルコールがあります。アルコール度数が高い、低いでずいぶん味のニュアンスは変わってきます。一般的にはアルコールが高いとワインは重く感じ、低いと薄っぺらな味わいに感じるといいます。


エキス分 ワインの水分がすべて蒸発したあとに残る残留分。濃度が高いかどうかといった印象を表現するときに「エキス分が高い」などといいます。


果実味 ワインの風味のなかでとりわけ果物の風味が強いか否かを表現するときに「果実味が勝っている」などというように使います。


硬い よく「まだ硬い」などと言われますが、これはタンニンや酸味、果実味のバランスの調和ができていない状態で、まだ熟成が感じられない若いワインに使います。


濃い 風味が凝縮されていて、味わいや口当たり、または色に深みを感じるときに「濃い」といいます。



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コク 「濃い」とは違う表現です。酸やタンニンに含まれるものでなく、ワイン自体が持つ豊かな味わいや風味に厚みを感じる場合に使う表現で、「コクがある」とは、一般的に優れたワインに対して使う言葉です。


骨格 ワインの味わいのスタイルのことですが、「骨格がある」は、しっかりとした頑強な味わいがある時に使います。


酸 酸はワインを感じる三大要素のひとつですが、言い換えればもっとも重要なものといってもよく、ワインの風味や寿命を決める重要な要素です。ワインに含まれる酸はすべて自然なものです。この酸がバランスよく熟していくのが理想です。


舌触り ワインを口に含んだ時のテクスチャー(のどごし)を指します。


スパイシー シナモン、クローヴ、こしょうなど、果物以外のはっきりとした香辛料を感じる時の表現です。


タンニン ワインの中の渋み成分のことで、ブドウの果皮から抽出されます。赤ワインに多く、白ワインには少ないのですが、「タンニンが豊富な」などと表現されます。


フィニッシュ 一般的に飲んだあとの後味をどう感じるかというときに使い、飲んだあと香りを長く感じたり、風味がいつまでも口のなかに残るような余韻を感じるときに、「フィニッシュが長い」といいます。



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複雑 香りや味わいの点で、単調でなく、ひとことで表現できないほどさまざまな風味を感じられるときに「複雑性がある」といい、よいワインのときに使います。


フレッシュ 爽やかな味わいで、生き生きとした味わいを持ったワインに使いますが、ふつう酸度が高く、時にはハーブ香のするようなすっきりとした白ワイン、もしくはフルーティーな若い赤ワインに使います。


ボディ 文字どおりワインの体つきを意味する表現で、ふくよかな味わいや重厚な風味を感じるとき「ボディがある」とか「フルボディなタイプ」といいます。


丸みがある 調和のとれた酸味のとがっていない味わいを表現するときの言葉です。



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やわらかい ワインの三大要素、酸、タンニン、果実味のバランスがとれていて、問題なく熟成がすすんだ、のどごしのスムーズなワインのことです。


よく、聞いたこともないような花の名前や、想像すらつかないような言葉を使うソムリエがいますが、お客様が首をかしげるような表現では的確にワインを説明できたとはいえません。たとえばブドウ品種のソーヴィニヨン・ブランによく使われる「濡れた犬の毛」、もしくは「濡れ雑巾」という言葉がありますが(実際、ソムリエの講習会でワインの表現用語集に入っています)、濡れた犬の毛の匂いを瞬時に思い出すことのできる人は少ないでしょうし、しかもこの匂いに好感をもてる人も少ないでしょう。このような表現法は避けるべきだと私は常日頃思っています。あなたにとって、好感のもてる表現でワインを説明できるソムリエが選ぶワインは、ほぼ美味しいと言えるでしょう。





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