第17回樽について

たいていの赤ワインは発酵が終わると瓶に詰められる前に木樽に入れ熟成されます。
これは基本的にいうと、出来立ての赤ワインはタンニンの成分や酸味が強いので、ワインに空気を与えて酸化還元熟成をさせ、味をまろやかにするためです。
また木樽で熟成させることにより、ワインに樽の成分を与えることも目的のひとつです。樽に含まれるウ゛ァニリンという芳香成分やタンニンがそうです。そして樽の内側を焦がして、トースト香やスパイス香をつけることも可能です。ブドウが持つタンニンが少ないと判断された場合、樽熟成によってタンニンが補われ、長熟でボディのしっかりとしたワインに仕立てることができます。



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最初にオーク樽をワインの熟成に使ったのはローマ人で、オークは柔軟性があり水を通さないためワインの貯蔵に都合がよかったと言われています。その昔、ワインは土製のアンフォラ(カメ)に入れられていましたが、割れたりする点で木製のほうがよくなったのでしょう。しかし、その目的はなんといっても樽からの風味をつけられるといったことによるものです。オークの香りはワインにとって非常にリッチで奥行きの深い香りと風味を生み出します。そのオーク香ともっとも相性のよかったワインがカリフォルニアのシャルドです。
元来カリフォルニアのシャルドネはすっきりとしたつくりが主流でしたが、フランス、ブルゴーニュ地方の、ムルソーやコルトン・シャルルマーニュといった銘醸白ワインを目指して醸造していくうちに、オーク樽との相性を見出し、今では遜色の違わない素晴らしいシャルドネが造られるようになりました。



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樽に使われるオークの種類は3つあります。
(1)ブラウン・オーク
一般的にいう"フレンチオーク"のことです。このブラウン・オークは成長が遅く痩せて砂の多い土壌を好み、香り高いきめの細やかな木材になります。

(2)ホワイトオーク
これはアメリカンオークのことで、フレンチオークよりも成長が早いのが特徴で、使える部分が多くまた価格も安いのです。フレンチオークよりも香りの成分が強く、ヴァニラやココナッツに似た風味が強烈にでる個性を持っています。そのためワインに対しては向き不向きがあり、スパイシーでもともと骨格のしっかりとしたワインでないと負けてしまいます。


(3)オウシュナラ
一般的に"リムーザンオーク"と呼ばれているものです。この木材はタンニンを非常に多く含み、オークの香りがそのままワインに移ります。ワインよりもむしろコニャックなどスピリッツのような強い酒に向いています。


このように材質で分けられ名前がついている場合と、木の産地で名前がつく場合もあります。ワインの世界では、「アリエール産」や「トロンセ産」などが有名です。



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私が5年ほど前にピエモンテ地方のある造り手を訪ねたとき、醸造所内を案内しながら彼は、「あと二年のうちにバリックを1000個まで増やすつもりだ」と言いました。この言葉が意味するものは大きく、ひとつはこのワイナリーに資金力がたっぷりとあること、そして彼の造るワインはバリックを使用するのに十分な高品位な素質を備えていること、また、どんなにバリックをたくさん使用し、そのことによってワインの価格が上がろうとも購入する客がいるということを示しています。
しかしながら、近年は樽熟成の力に頼らないナチュラル志向のワインが注目を集めています。ブドウそのものの力を尊重した造りです。もちろん産地や、ブドウ品種によっても樽を使用するか否かといった選択はあります。大事なのは、樽をどれだけ使えるかということではなく、ブドウの栽培、そして自らの造るワインの方向性をきちんと見据えることのできる天の恵みに誠実な造り手の心なのです。





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