第21回ワインの香り

ワインを表現するとき、もっとも重要な要素はなんでしょう。
そのワインがどの地域のなんというワインなのかということを推定するとき、実は一番の決め手になるのは香りなのです。
以前、知り合いのソムリエが、大きなコンクールに出場しました。彼は成績がとても優秀で本選5人の中に選考されたのですが、コンクール本選当日までの約3週間、真っ暗な部屋の中で目隠しをして、グラスの中に入っているワインの色をまったく見ず、香りだけで産地、ワイン、収穫年を推察するトレーニングを続けたということです。それぐらい、ソムリエにとって香りを嗅ぎ分けることは大切なことなのです。



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ワインセミナーで、まだテイスティングに慣れない入門クラスの方のコメントを聞くと、「ワインの香り…としかわからない」または「ブドウ?マスカットのような香り」などと答える方が多く、ソムリエが表現するような語句を最初から並べられるような人はまずいません。しかし、"香りを利く"という作業もトレーニングしだいで、産地やブドウの品種ごとの特性からくる香りが嗅ぎ分けられるようになってくるものです。その為に、幾度か同じ種類のものをテイスティングし、その共通する香りを記憶していくのです。



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香りの中には、果実の香り、草や花など植物の香り、スパイスやハーブの香り、バターやハチミツなど食品の香り・・・などさまざまなものがありますが、まずワインが発する香りには二段階あることを覚えてください。
ワインがグラスに注がれて最初に感じる第一の香り、これが「アロマ」です。アロマはブドウがワインになるまでの香りで、ブドウの果実そのものから由来する香りです。その後、グラスに注がれてからしばらく経ったあとの二番目の香りは「ブーケ」といいます。こちらは、発酵や醸造の段階に生まれる香りのことです。この二種類の香りを体系的に判別することによってワインを特定できるようになります。このことを考えると、グラスに注がれたばかりのワインを、少しも嗅がずにスワリング(香りをより引き出すためにグラスを廻して空気にふれさせること)してしまっては、最初のアロマを嗅ぎ取ることができません。まずは静かにワインのアロマを感じることです。
一方、ブーケはやや時間がたち、そして空気と触れ合ってからでる香りですから、香りのボリュームが弱ければ、スワリングしてもかまいません。何度も納得のいくまで鼻をグラスの中にいれてもよいのです。



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また、ワインの色と香りは密接な関係にあるといえます。たとえば、濃い色をした赤ワインは、ブドウが完熟になってから造られたワインで、特性がはっきりと出ているといってよいでしょう。濃い赤の色であれば、そこから連想される香りはブラックベリー、やや薄く明るめになっていくにつれ、ラズベリー、イチゴというように感じる果実の種類も変わるのです。白ワインも同様で、濃い黄色をしたワインは、バターやチーズなどを連想させますが、薄緑色で浅い色合いの白ワインなら、草やハーブなど爽やかな植物を連想するものです。このことはワインの熟成度とも関係してきますので、いろいろなタイプのワインの香りをテイスティングすると面白いでしょう。
また一般的に、ワインが熟成するとまた違った香りがでてきます。ワインの色がオレンジや褐色になっていれば、当然長い間熟成されたワインと想像されます。こういったワインには、キノコや土、スパイスや乾燥フル-ツ、タバコなどの香りが強く感じられます。



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味覚と同様、香りには好き嫌いがはっきりとでますので、記憶することはそう難しくないのですが、いざワイングラスを前にすると、どのような香りがあるのかを表現する語句が思い出せないこともあるでしょう。
そのためにも常日頃、身近にあるいろいろな物の香りを嗅いでみます。ピーマンの匂いや玉ねぎの匂いは、人によって嫌いという人もあるでしょう。しかし、好き嫌いがはっきりとでるからこそ、香りを記憶できるのです。
ある香水の香りを嗅ぐと、知っている人でその香水を使っている人の顔が思い浮かぶでしょう?これこそ、香りからワインを特定するシンプルな例なのです。
数多いワインの種類を特定する香りを表現するには、その何倍も多く、香りの種類を知っていなければなりません。しかしその表現において、外国人のソムリエが使っている語句で、日本ではなじみのない草花や食品の香りを引用しても、一般の人たちにはわかってもらえないように、他の人が聞いて、その香りを連想できないような、自分にだけわかる表現はいけません。また、眉をひそめるようなものを連想させる香りの表現も避けるべきでしょう。次回では、ワインや産地ごとに特定できる香りを実際に挙げていきます。





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