第27回ワインと料理 Ⅱ


前号でワインと料理の基本的な合わせ方を紹介いたしましたので、今回は合わせにくい例を紹介します。

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まず、食事として最も一般的なメニューでありながらワインとの相性が難しいアイテムがスープ。それは、味わいというよりも食感によるものです。食中、ワインが果たすもっとも大きな役割は口を潤し、リフレッシュさせるということです。すでにスープで潤っている口にワインを足しても、味わいが薄まるばかりで美味しさを感じることが難しくなってしまいます。日本料理では、“お吸い物は料理人の魂がこめられる一番の料理”と言われていますが、私は、和食の店でワインを飲むと分かっている場合に限り、お吸い物を献立からはずしてもらうことすらあります。どうしてもコースに組み込まれるなら、お吸い物の間だけワインを口にしないことです。これはワインが美味しくなくなるというよりも、繊細なお吸い物の味がワインによって味わえなくなるのを防ぐためなのです。

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次に相性の悪いものを上げるなら酢を使った料理です。もともとワインには酸味があり、酢の役割を果たしているので、直接口に感じる酢の味が強い料理にはワインが負けてしまいます。
酢漬けのニシン(これは超難しいニシンの魚くささも後押しします)、またはピクルスやケーパーを食べたあと。味を想像してみてください、それでも赤ワインを欲しがる人はほんの少数だと思います。またレモンの味が強い料理も同様です。焼魚や揚げ物にレモンはつきものですが、ワインが一緒なら、<レモンをやめて塩だけにするか、控えめにしたほうが調和がとれます。

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また家庭の食卓にあがるものの中では、フナ寿司がもっともワインとの相性が難しい食品でしょう。私も何度か試してみましたが、やはり、なんとか合わせて飲むことができたのはスパークリングワインだけでした。以前は、ウニやイクラなどの魚卵もワインが難しいと言われていましたが、こちらはスパークリングワイン、特に上質なシャンパーニュやシャンパーニュ・ロゼにはよく合う食品だと思いますのでお試し下さい。サバやコハダなど、いわゆるヒカリモノと言われる青魚もワインにはやや難しい食品と思われがちですが、ミネラル感の強い北イタリアのワインがよく合います。

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また卵料理もワインと合わない代表料理のように言われたものですが、私はそれほど難しいとは思いません。そうはいっても、シンプルなゆで卵、ハムエッグやオムレツなどのように朝食メニューはもちろん難しいかもしれませんが、アスパラガスやニラなど青い野菜と一緒に調理した卵料理に白ワインは良く合います。また北イタリアの秋の味覚“白トリュフ”を使った一番シンプルな料理は、ココット皿に割りいれた卵をオーブンで焼き、その上にたっぷりとけずった白トリュフをかけたもので、白トリュフと同じ産地、ピエモンテ産の辛口のしっかりとした白ワインとは極上の組み合わせです。

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料理以外に、ワインと合わない食品としてよくあげられるものが、チョコレートです。
最初からデザートワインとして醸造された甘口のワイン、たとえばフランスのソ-テルヌや、イタリアのレチョートなどを合わせても、まだチョコレートの甘味のほうが強く、繊細なワインの風味や香りがひきたつことはなかなかないからです。私は、デザートとあうワインを探す、のではなく、時々ですが、甘口のデザートワインをデザート菓子の代わりに飲むようにしています。

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“この食品はワインと合わない”と決め付けてしまうのはとても悲しいこと。でも、わざわざ合わないもの同士を一緒に口にして、双方の美味しさを奪ってしまうのはもっと悲しいことです。ワインに合わないと言われている食品にも、合わせることができる美味しいワインを見つけるためには、さまざまな経験が必要です。その経験の積み重ねも、ワインの楽しみのひとつと言えます。一番美味しく感じる環境で「食べる・飲む」を楽しむことこそが幸せな食卓なのですワインと料理に対して、自分なりのセオリーを見つけておくとよいでしょう。





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