第37回 タンニン

タンニンとは、植物に由来しタンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し、強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称のことで、タンニンは、酸味、果実味とともにワインの味を構成する大切な要素のひとつです。一般的にタンニン=渋みととらえている人が多いでしょう。これはタンニンが、舌や口腔粘膜のタンパク質と結合し、性質を変えることによって渋いと感じるのだと言われています。タンニンが唾液に溶けると渋みを感じる、これはタンニンによる粘膜の変性作用で、「収れん作用」と呼ばれています。厳密にいうと、渋みは味覚の一種というよりもタンパク変性によって生じる痛みや蝕覚に近い感覚のものなのです。



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ワインのタンニンはブドウの果皮や種子に含まれているものです。赤ワインを醸造する際、果皮や種子とともに浸漬する時間が長いので、白ワインよりもタンニンが強く感じられることが多いのです。また、熟成をさせるために使用するオークなどの樽材にもタンニンが含まれるので、木樽で熟成させるとタンニンがより増加するのです。長熟のワインはたいていの場合、樽熟成されていますのでタンニンが豊富なワインになります。
逆に、ボージョレー・ヌーヴォーのように、熟成に木樽を使わず(一部のボージョレーには木樽熟成のものも若干あります)ステンレス・タンクで発酵させた後すぐに瓶詰めし、フレッシュ&フルーティーさを売り物にするワインにはタンニンをほとんど感じません。
ですから、ボルドーのグランヴァン、カリフォルニアやイタリアなどでもタンニン性の強いブドウ品種をつかった赤ワインは厳選された樽を使用し長い期間熟成されますので、当然タンニンも強くなるのです。まだ若いワインのタンニンは荒々しく、収れん性を強く感じ舌をしめつけるような味わいで、初心者のワイン愛好家にとっては、とても美味しいといえる味ではありませんが、タンニンの強さがこのぐらいでないと長い熟成に耐えられないのです。このようなワインは、タンニンと同様、豊富な酸味を持ち合わせていますので、酸とタンニンが、年月が経過するとともに調和を増し、次第にやわらかくなり、芳香成分も加わり、ワインの本当の魅力が生まれてくるのです。
一口にタンニンといってもテイスティングをすればさまざまなタイプのタンニンに出会います。タンニンを表現するいくつかの言葉をあげてみましょう。

心地よいタンニン
まだ硬く閉じたタンニン
目の粗いタンニン
テクスチャー(舌触り)のよい・または悪いタンニン
収れん性の強い・弱いタンニン
次に、品種別にタンニンの強弱をあげてみます。

<タンニンの少ない品種>
ピノ・ノワール
ガメイ
グルナッシュ

<タンニンが中程度の品種>
メルロー
サンジョベーゼ
テンプラニーリョ

<タンニンの強い品種>
カベルネ・ソーヴィニヨン
シラー
ネッビオーロ



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ではこれらの品種ごとにタンニンについて表現してみます。
ピノ・ノワール:豊かでキレのよい酸味と繊細なタンニンをもつ
ガメイ:みずみずしい赤い果実を連想させ、タンニンは感じられない
グルナッシュ:果実味に富んだ色の濃いワイン、甘みは感じるがタンニンは弱い
メルロー:果実味の濃縮度は高いが、穏やかなタンニンを持つ
サンジョヴェーゼ:地域によってさまざまなタイプがあるが赤ワインの中でももっともスマートで繊細なタンニン
カベルネ・ソーヴィニヨン:色調が濃く、ヴォリュームのあるしっかりとしたタンニン
シラー:深みのある色合い、タンニンが豊富でアルコール度数が高い
ネッビオーロ:濃縮したプラムのような味、酸が豊富でなめらかなタンニン



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タンニンはそのブドウが育つ地域によっても質がかなり違います。
ボルドーの重厚なタンニンを基準にお話してきましたが、ボルドーより降雨量が少ないカリフォルニアではブドウが完熟し、安定した質のブドウが常に収穫できます。カリフォルニアのブドウは非常に色が濃いのですが、どちらかといえば柔らかい質のタンニンで、若いワインでも比較的飲み易いといえます。また醸造学的にもタンニンの質が柔らかいブドウを作る研究が進められているそうです。
しかしながら、なんといっても味を決めるポイントは、どれだけタンニンが豊富かといったことではなく、酸味とのバランス、調和がうまくとれているかに尽きます。ワインの味わいに深みや複雑性があり、将来、長期にわたって熟成をすれば、まろやかで芳しいワインに変貌するかどうかの鍵、それがタンニンの大きな役割なのです。
 先日イタリアソムリエ協会の副会長を務めるマッシモさんのテイスティングセミナーに参加しました。さまざまなワインを彼とともにテイスティングし、コメントを聞きましたが、彼の説明の中で、「タンニンの種類をはっきりと自分の中で見極めること、それがテイスティング能力を最も確かにする第一のステップだ」という言葉がありました。
彼は、ワインの中のタンニンがどの程度かを計るとき、口に含んでから左右に頭を動かす、という動作をやって見せました。私も真似をしてやってみると、なるほど、口の中でワインが移動し歯茎にくっきりとワインの味わい、確かにタンニンがまとわりつきます。荒いタンニンか、なめらかな性質か、強いのか弱いのかといったことが瞬時に判断できました。
それ以来、私はワインを口にする時、いつも頭を左右に振って、タンニンを口の触感で確かめています。



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