第38回 ワインの甘み

ワインの味わいの構成の中で重要な3つ、それは酸味、甘み、タンニンです。今回はワインの甘みについてお話します。



<--◆-->

甘みは、ワインに残る残糖分によって感じるものでブドウの成分に含まれる糖分が大きく左右します。十分に熟したブドウからとったブドウ果汁でも、ほとんどの糖分が酵母菌によってアルコール発酵してワインになりますので、だいたいがもともとのジュース(ブドウを搾っただけの液体)よりもドライに感じるものですが、どの程度、糖分が残るかによって、ワインの味わいが決まります。ワインはご存知のようにごく辛口から甘口までありますが、それは甘みと酸味のバランスによっても感じる味わいに変化が生まれます。



<--◆-->

シャンパーニュを例にとりましょう。
シャンパーニュの甘辛度は、”リキュール・デクスペディション”(門出のリキュールと呼ばれている。シャンパーニュを造る最期の工程でワインに糖分を加えたリキュールを添加すること)の添加量によって決まります。
Brut Zero:リキュール添加なし
Brut Natur:3g/l 以内
Extra Brut:0~6g/lの間
Extra Dry:12~20g/l の間
Brut:15g/l 以内
Sec:17~35g/l の間
Demi Sec:33~50g/l の間
Doux:50g/l以上



<--◆-->

一般的なN.V(ノン・ヴィンテージ)のシャンパーニュは
Brutと呼ばれるもので、甘みも酸味も程よく含まれたフレッシュ感のあるものです。多くのシャンパーニュ愛好家は辛口を好む傾向にありますが、かつては甘口が絶世の人気を誇っていた時期もあるのです。ルイ15世の寵愛を受けた女性として有名なポンパドゥール夫人は大のシャンパーニュ好きとして歴史上エピソードを残していますが、夫人の時代、もっともよく飲まれていたのが甘口のシャンパーニュだったそうです。またロシア皇帝アレクサンドルに愛されたシャンパーニュ「クリスタル」も、当時は今ほどドライな味わいでなく、甘口が好まれていたようです。
私はどちらが好きというより、飲む時間帯や、合わせる食べ物によって、辛口か甘口を分けて使っています。辛口のシャンパーニュはオールマイティ、いつ何どき飲んでも美味しいものですが、甘口は、爽やかな初夏の午後、フルーツを挟んだサンドイッチなどと一緒に頂くと非常に美味しいですし、クリスマス時期に出回るイタリアのお菓子「パンドーロ」は甘口のシャンパーニュによく合います。また夜更けに少しだけという場合も、一杯の甘口シャンパーニュは胃を刺激せず美味しく感じます。



<--◆-->

では、ワインでいうところの甘口をお教えしましょう。
フランスで最も有名な甘口ワインは、ソーテルヌという村で造られる甘口白ワインです。その中でもっとも高価な銘柄が「シャトー・ディケム」。ヨーロッパのオークションによく出品されます。このワインは100年の寿命があるとされ、古い貴族の館が売却されるときに地下セラーにあった、などという話がよくあります。このワインの甘みは、貴腐菌(ボトリトゥス・シネレア菌)による作用で、ブドウの果皮に細かな穴が開き水分を奪われるため、干しブドウ状になったものを搾汁するためです。貴腐菌がつくための特別な気象条件が揃わなければ貴腐ワインを造ることはできず、生産量はごくわずかなので、結果的に高価なワインになります。
もうひとつ、甘口の白ワインを作るための製法として、ブドウ収穫の遅摘みがあります。収穫を遅らせて糖度が上がるのを待ちます。フランスのボンヌゾーやアルザスのゲビュルツ・トラミネールがそれにあたり、エティケッタ(ラベル)には”ヴァンダンジュ・タルディヴ”(遅い収穫)と表示されています。
このようなワインは、色が濃く黄金色を呈しています。ハチミツや杏ジャム、白桃のような香りが特徴で、ねっとりとまとわりつくような濃密な味わいですが、これは他のどのワインにもない特徴です。
美食家たちに好まれる料理との最高の相性は『フォアグラのテリーヌ』でしょう。ロックフォール(仏)やスティルトン(英)、ゴルゴンゾーラ(伊)などのブルーチーズもこれらの甘口ワインがよく合います。



<--◆-->




第39回 ワインの酸味 >>
壬生有香の「美食画報」 TOPへ >>
美通信 コンテンツ一覧へ  >>