第39回 ワインの酸味

ワインが持つ味わいの構成タンニン、甘みと回を進めてきましたので、ここでは酸味についてお話したいと思います。



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酸味=すっぱい。これは誰でもが感じるレモン果汁やお酢(ヴィネガー)の味覚です。
レモンだけをかじればすっぱい、でもレモンスカッシュになるとすっきりと爽やかな飲み物になります。これは酸味と水分のバランスがよくとれた結果です。一般的に、ほとんどのフルーツには酸味を伴っています。グレープフルーツ、梨、オレンジ、イチゴ、ラズベリーなどなど。これらの果物が若いうちは酸味が勝っており、熟していくについれて甘みが勝っていくのですが、酸味と甘みのバランスが崩れ始めると美味しさが半減してしまうことを、皆さんもよく経験されているかと思います。
ワインの味わいは冒頭で述べたとおり、タンニン、甘みそして酸味のバランスでできています。このトライアングルのバランスが完璧なワインなら、味わいも満足できるものでしょう。
ワインの酸味の要素を分析すると主に次の3つでできていることがわかっています。

・酒石酸
・リンゴ酸
・クエン酸



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酒石酸は、ワインの桶、または瓶の底に結晶する酒石の成分で、瓶の中にキラキラと輝く半透明のクリスタル状のものがそうです。酸味があがった白ワインのボトルによく見られることがあります。
リンゴ酸は、文字通りリンゴに含まれる酸味でヒドロキシ酸に分類される有機酸の一種で爽快感のある酸味です。リンゴ酸は疲労物質である乳酸の分解を促進するため、最近の研究で疲労回復に良く効き、抗アレルギー作用があることも分かってきたそうです。またクエン酸とともにとることによって殺菌作用や体内の炎症を癒す効果があり、胃腸の働きを促進するというのですから、両方が伴っている白ワインは健康によい飲み物ということになりますね
クエン酸、これもヒドロキシン酸のひとつで柑橘系のフルーツに含まれる酸です。漢字では「枸櫞酸」と書きます。枸櫞は中国のレモンの一種を指し、レモンをはじめ柑橘類果物に多くこの酸が含まれることから名前がつきました。「すっぱい」代表の梅干にも多く含まれています。



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ワイン作りに酸味と甘みのバランスが不可欠なことは何度も述べていますが、ワインの場合、最初から酸味が強すぎるものは、熟成状態がまだ若い証拠です。よく「まだ青い」などと表現されます。酸味はエイジング(年数経過)とともにやわらかく、まろやかになるものですが、最初から酸味が乏しく物足りない場合は、味わいにしまりがなく、単調でボディが薄いワインだと酷評されることもあります。



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では具体的にワインの酸味、というものをご紹介しましょう。一般的にワインの酸、と聞くと、思いつく銘柄がシャブリという人も多いと思います。フランスのブルゴーニュ地方、コート・ド・ボーヌ地区、シャブリ村のワインで、ブドウ品種はシャルドネです。シャルドネは昔から白ワインの代表選手、数十年前のことですが、アメリカではシャルドネ種で造られた白ワインの呼称を「シャブリ」としていたほどです。今は原産地呼称の保護がきちんと守られるようになり、シャブリ地区以外のワインにはシャブリという名前で呼ぶことは許されません。グレープフルーツやリンゴ、火打ち石などの香りが特徴でミネラル感溢れた爽やかな味わいですが、プルミエ・クリュやグラン・クリュになると樽熟成されますので、ナッツやオークの香りが伴います。「カキ(牡蠣)にはシャブリ」という言葉がありますが、これもシャブリの持つキリッとした酸味が、レモンのような効果を生むことと、白ワインに含まれる味わいの要素が殺菌効果に優れていることから生まれた言葉です。実際に牡蠣と一緒に飲むのであれば、私自身は、上等なグラン・クリュより、手頃な価格で買えるシャブリ(樽で熟成されていないもの)のほうが、スッキリとしていて美味しいように思います。
また意外にも、かなり濃厚だと思われるボルドー産の甘口白ワイン、ソーテルヌにも実は豊富な酸味が隠れています。ソーテルヌは一般的にはデザートワインとして楽しまれる方が多いのですが、”料理とワインのマリアージュ(相性)”の定番でもあるフォワグラと一緒に飲むと、フォワグラの脂肪分たっぷりとした味にソーテルヌの独特の酸味が利いて非常に美味しい1品です。このワインの酸味はスッキリとした、というよりもねっとりとしたコクの中に飲みやすさを与える酸味です。



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たいてい気候的に涼しい気候で育ったブドウは酸味が爽やかになると言われています。世界の中のどのワイン生産地でも、一般的に北部の冷涼な地域で造られるワインのほうが、酸味が豊富、しかも品のよい酸味が多く含まれているように思います。私が好きな白ワインの地域を紹介しましょう。イタリアの北部、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州は、オーストリーと国境を接する地域で、イタリア中、もっとも白ワインのヴァリエーションが多い地域です。ミネラル感がたっぷりとしており、フラワリーな香り、ハーブ香、果実味が豊富に感じられる白ワインが多く生産されています。
魚料理ばかりでなく、野菜料理にもチーズにもよく合うワインで、私の家では一番食卓にあがる回数が多いワインです。



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