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第43回 ワインビジネスの言語

私がワインの世界にはいって一番苦労したこと、それは言語習得です。
ワインの勉強を始めたとき一番先に入門した外国語がフランス語でした。クレジットカード会社が主催するカルチャーセンターで、著名な仏語翻訳家が講師をつとめるフランス語レッスンの中に「ワインのラベルを読む」というプログラムがあることを新聞で知り、早速入校しました。ちょうどワインスクールにも通い始めた頃で、ラベルに書かれたフランス語を何とかスムーズに読みたいと思っていた時でした。入ってみるとその教室は、フランス語の初級者向けで、「アンシャンテ(はじめまして)」を、どう発音すれば上品に聞こえるか、といったような女性向けコース。レッスンの後半約10分ぐらいでワイン(フランスワイン)ラベルの読み方が組み込まれていたものでしたが、女性講師のフランス体験談を折りまぜた講話を楽しみに一年間通うことができました。
今、ワインの専門家になりセミナーなどで皆様に質問される項目で一番多いのが、ラベルに何が書かれているか、どう読むのか、ワイン名はどこを読めばいいのか、といったことです。例えば、ヴィラージュは村のこと、シャトーはブドウ園ということ、などなど、フランス語の基礎が分かると実に簡単なことですが、初心者にはとても難しく感じられるものです。



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やがて私は本格的にワインビジネスに関わるようになり、欧州ワイン産地からの来訪者との面談やディナーが多くなるにつれ、英語でのビジネストークが必須になりましたが、私の専門分野はイタリアワインです。日本で本格的にイタリアワインのブームが起きたまさに1990年代、その当時盛んに来日していたイタリアのワイナリー関係者の多くが、まだイタリア語でスピーチする人ばかりで、セミナーで必要になったイタリア語通訳の面々は、たちまち顔を覚えることができるくらい、小人数で仕事を振り分けられていたように思います。幸い、音楽大学でイタリア語に多少触れていた私は、通訳の方が話すイタリア語の中で、聞き取ることのできる単語を拾っては、自分なりの解釈をし、翻訳文を照らし合わせるなどもしていましたが、片言の挨拶をイタリア人と交わすという程度でした。しかし、醸造家が話すワインの技術的な説明になると専門的な知識が必要ですから、一般の伊語通訳の方がついてくることができないフレーズも時折あります。そこで、私は何とかイタリア語で現地の人と直接意見を交わしたいという一心で、自分の仕事に合わせたイタリア語学習を始めました。スクールでの個人レッスン、教本やCDによる独学も合わせると、合わせて数年かかりましたが、何とか日常会話が成り立つようになりました。そうこうするうちに、イタリアのワイナリー訪問の機会が増えたので、なるべく一人で出張するようにして、自分の使っているイタリア語の何が駄目なのか、ということを実体験しながら習得していったのです。そうしてイタリア人との意思疎通も何とかはかれるようになりましたし、出張のたびにイタリアの本屋に立ち寄ってはイタリアで出版されたワインの本を何冊も購入して、どのような文章で書かれているのかを研究していったのです。そうした努力が功を成したか、今ではイタリア国内で行われるワイン・コンクールの審査員や、ワイン関連の行事に公式に招待されるまでになりました。



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現在、世間一般と同様、ワインの世界でも英語が世界共通語です。ソムリエの世界でも英語でのワインの表現やサーヴィスができることが必要で、いまや一流のソムリエになるためには外国語習得が必須アイテムになっています。英語が問題なく話すことができるその上で、フランス語でもサーヴィスできるなどという人は、コンクールなどでもさらに有利です。もちろん貿易に携わる輸入代理店に勤務する人達は流暢な英語やフランス語を話す人がほとんどです。



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今では、日本国内でもワイン用語を多言語で翻訳した実用本が出版されていますが、私の知る限り、この類で一番早く出された実用本は「ワイン6ヶ国語辞典」(初版発行1997年フランス:翻訳版出版 柴田書店)6でした。ワインに関するボキャブラリー1500語が、日本語・ドイツ語・英語・フランス語・イタリア語・スペイン語の6カ国語で掲載されている優れた辞典です。その後私が購入できた本が、2006年に日本で翻訳出版されたワイン・テイスティングの表現に重きをおいたワイン外国語会話本「日仏英プロのためのワイン会話集」(2003年フランス初版発行/翻訳版出版 柴田書店)です。こちらは単語集というより、実際にワインビジネスの現場で会話をどのように進めていったらよいかを3ヶ国語で掲載したもので、プロ向けに作られています。そして、ようやく2007年になってイタリア語の入った「日仏英伊4カ国ワイン用語集」(2007年発行 飛鳥出版)が出版されました。
このように日本国内で出版されてきた書籍の経緯をみても、イタリアワインが近年になって重要視されてきたことが見えてきます。
イタリア語をなんとか充分に理解し話すことができるようになった今、私は再度フランス語にチャレンジしています。今日の学習にはイタリアで購入した「FRANCESE-ITALIANO」(フランス語/イタリア語 ボローリ出版)の辞典がとても役立っています。



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