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第44回 寿司とワインの相性

料理とワインの相性(仏:マリアージュ、伊:アビナメント)は、今、ソムリエ、レストラン業界でもっとも重要な課題であると言われています。スローフードなどから始まったさまざまな国での食文化の見直しがあり、健康的でもっとも自然のサイクルに近い食事が地中海料理であるといわれていたのが1980年代、その後、オイル分が少なく、野菜や新鮮な魚介類を多く使う日本料理が世界の食に携わる人々に注目され始めたのです。
そういった兆候は、たとえば海外の空港に現れています。今、海外の国際空港のウイング内には「SUSHI Bar」が多く出店されるようになりました。私が頻繁に使用するフランクフルト(ドイツ)、ローマ(イタリア)、スキポ-ル(オランダ)などの空港内の店では、目をみはるような数の客席をそろえています。中でも目をひくのが、高い天井に向かって建てられた巨大な壁一面にディスプレイされたワインボトル。寿司と日本酒、という日本ならではのスタイルよりも、ワインと寿司を楽しむ旅行者が多いということではないでしょうか。
「ミシュラン」という、フランスのタイヤメーカーが発行するレストランガイドは近年日本でも注目を集めていますが、中でもひときわ話題にあがるのが日本の寿司店です。私のところへくる海外からの来訪者も事前に下調べをしてくるのか、ミシュランの評価をあらわす星がついた寿司店へいくことが出張中の楽しみだということをよく聞きます。



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私がワインのコーディネーションをしている寿司店もミシュランの星付きレストランのひとつですが、こちらのご主人はとても早くから店でワインをだしていました。ブルゴーニュ・ワインを非常にお好きであったためと伺っていますが、当時、寿司屋にワインは非常に珍しいことでした。このご主人が選んでいたワインは、品質の高く、素性のはっきりとした良い銘柄のワインが多く、この店から寿司とワインの組み合わせを楽しむファンが増えたと言っても過言ではありません。
カウンターで食べる寿司とワインの組み合わせで一番難しいことは、寿司ネタと併せるワインの種類ではなく、食べる人によってオーダーする寿司の順番がちがうことです。もし二人で食べている場合、どちらか一方が白身を注文し、もう一人がトロを注文する、などということはよくあることですが、ワインと合わせる場合には、非常に難しいケースです。グラスでサービスされるワインを何種類もおいていれば問題ありませんが、好みのはっきりとした銘柄のワインを1本注文するとなると、食べる順番によっては当然合わないネタがあります。そこで私が提案したものがイタリアの白ワインです。味わいの種類が多いことが一番ですが、コストパフォーマンスの高いワインが多いので、グラスワインとして幾種類ものワインをサービスすることが可能です。



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品種の多いイタリアの白ワインは、それぞれに個性がはっきりと違いがあります。またおおむねミネラル分を多く含むワインが多いことも、魚介に合わせるワインが豊富だといえるでしょう。北のアルプスを除き、多くの州が海に囲まれた国土であるため、新鮮な魚介類をつかったものが地方料理に多く見られます。ワインと料理の組み合わせかたのひとつには、その土地のワインとその土地の食べ物、という方法がもっとも基本的な合わせかたです。南イタリアならどこでも見かけるヴォンゴレ(アサリ)のスパゲッティには、その土地の白ワインがよく合います。それは、その土地の食材の味ということや、料理にその土地で造られたオリーブオイルが使用されるからかもしれません。そういったことから、私は寿司ネタにワインを合わせるとき、その食材がどこの地方から届いたのかを聞き、その土地の風土をイタリアに照らし合わせて、もっとも環境が近い場所のワインを選ぶこともよくあります。または、環境的なものはまったく考えず、ワインによる個性的な味と寿司ネタを独創的に合わせることもありますが、これにはかなり経験が必要です。



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今、店のご主人と一緒に取り組んでいることがあります。それは”寿司には醤油”だけではない、ということで、レモンと塩、またはオリ-ブオイル、コショウなどをネタに併せてつける試みです。ほんの少しの調味料によっても、ワインとの組み合わせが断然合いやすくなるので、さまざまな試みをしています。
イタリアワインに限っていえば、塩とオリーブオイルによってほとんどの魚介類のネタがワインに合いやすくなります。白身、甲殻類、貝類はすべてこの方法でワインを選ぶことができますが、ワインの側からいうと、樽熟成の強いものだけが、寿司ネタには難しい組み合わせです。ほとんど生の食材が多い寿司ネタには、やはり、ミネラル感を豊富に感じるものから選ぶほうがよいでしょう。樽熟成が強い白ワイン、たとえばフランスのシャブリやムルソーなどがその類ですが、こういったワインにはバターを使った料理のほうが、断然合います。食材だけでいえば、アワビのステーキなどにはよく合いますが、寿司屋でアワビをバターで焼くように注文できません。そういった時に、少量のオリーブオイルと塩を使うことを許可していただければ、ワインとの組み合わせの可能性が広がります。
国際的にポピュラーになりつつある寿司の将来は、伝統的な日本の食文化を保ちながら、ワインに近寄っていくことが発展の鍵であるかもしれません。



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