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第45回 デザートワインのマリアージュ

世界のワイン産地で造られる甘口ワイン、通称デザートワインといわれるもののなかで代表的なワインがソーテルヌ。フランス、ボルドー市の南東、支流のシロン川の南北地区ソーテルヌで生産される甘口白ワインです。ミクロクリマといわれる微気候により、ボトリティス・シネレア菌の働きで貴腐になったブドウからできる、黄金色をした天然甘口ワインで、ハンガリーのトカイ、ドイツのトロッケン・ベーレン・アウスレーゼと並び、世界三大甘口ワインと称されています。いずれも貴腐ワインで、貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)がブドウの果皮に付着し感染することによって、果皮の表面のロウが失われ、水分が蒸発する、そして外側がカビに包まれながら干しブドウ状になるため、ブドウの糖度が上がります。この状態は珍しい気象条件のものにしか起こらないため、非常に稀な年にしか起こらない現象で、貴重な作柄の年にしか生産できないものです。その糖度ゆえ、良質なものは寿命が非常に長く、最良年のものだと100年はもつ、と言われているほどです。



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貴腐ワインの歴史は1650年に遡ります。ハンガリーのトカイ地方でオスマン帝国の侵略による収穫の遅延によって偶然生まれた貴腐状のブドウ、それから造られたワインが最初だといわれています。それから約100年後、ドイツのシュロス・ヨハネスブルグでやはり収穫の許可待ちをしていて偶然発生した貴腐菌により造られたブドウでも甘口ワインが出来ました。この頃になると王侯貴族の間でも飲まれるようになり、ルイ14世は貴腐ワインを「ワインの王にして王のワインである」と絶賛、また1779年、オーストリアのマリア・テレジア女王が「黄金色に輝く貴腐ワインには、金が含まれているのでは?」とウイーン大学に分析させたという逸話も残っているそうです。いずれにせよ、非常に貴重なワインであったことが伺えます。
ソーテルヌでは、1855年にパリ万国博覧会を機にボルドー商工会議所によって作られたボルドーワイン格付けのときに、ソーテルヌも合わせて格付けが行われました。
プルミエクリュに11銘柄、最高位のプルミエ・クリュ・シュペリュールとして1銘柄選ばれ、それが「シャトー・ディケム」でした。1ヘクタールからわずか200本しか造られない(この量は、ディケムの畑のブドウの樹1本分のブドウでグラス一杯程度だと言われる)世界一贅沢なデザートワインなのです。



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一方で、あまり多く知られていませんが、イタリアでも数多くのデザートワインがあります。イタリアは白ワイン用ブドウ品種の種類が多いこともありますが、製法は貴腐菌によるものでなく、ブドウを陰干しし乾燥させてつくる“パッシート”と呼ばれるデザートワインが主流です。シャトー・ディケムほどではありませんが、少量しか生産されないため価格もそう安くないのですが、非常に愛飲されており、一流のレストランでは多種のデザートワインをワゴンにのせてサービスしています。



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ではこのように高価で独特の芳香、味わいを持つデザートワインには何を合わせたらよいのでしょう。多くのデザートワインは、糖度が高いだけでなく、酸が凝縮して濃厚な味わいになっており、高いミネラル分もあります。
フランスの伝統的なマリアージュとして、ソーテルヌなどのデザートワインにはフォワグラが有名ですが、その理由は、糖分がフォワグラもしくはレバー独特の臭みを隠し、ワインの持つ粘性、甘さとフォワグラのトロリとした食感とが同化し、絶妙な調和を見せるからと言われています。新鮮なフォワグラを良質なバターでさっとソテーしたものには非常によく合います。フォワグラはアルザスの地方料理として有名で、この場合はソーテルヌだけでなく、アルザス地方のゲビュルツ・トラミネールやリースリングで造られたデザートワインがよく併せられます。
私はフォワグラなら、どちらかといえば田舎風のパテに固めたものを、フォークで少量とりながらよく温めたバゲットと一緒に食べるほうを好んでいます。デザートワインは普通の白ワインと違い、ゆったりと飲むほうが時間軸にあっているような気がするので、食中に一皿でだされる料理と合わせるよりも、時間を気にせずにつまむという方が、デザートワインに合った食べ物ではないかと思うからです。それまで私はあまりフォワグラ自体好んで食べるほうではなかったのですが、一度だけパリに滞在したときに、食材会社の社長をしていたフランス人が贔屓にしている“パリで一番美味しいフォワグラのパテをだすレストラン”(名前は忘れました)に連れて行っていただき、パテの美味しさを知りました。



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一方その味わいと対比させた相性で、ブルーチーズと甘口ワインとの相性もよいとされています。ブルーチーズとは、イギリスのスティルトン、フランスのロックフォール、イタリアではゴルゴンゾ-ラがそれにあたります。
私が家庭で食事会をするとき、最後にイタリアのデザートワイン、パッシートに合わせてゴルゴンゾーラをだすことがありますが、その時は、ゴルゴンゾーラに蜂蜜やアプリコットのジャムを一緒に添えます。もともとデザートワインには蜂蜜のようなコクと香り、甘みが存在していますし、香りはアプリコットやアーモンドキャラメルのような香りがありますので、辛口のゴルゴンゾーラに少量の甘みを加えてやると、とても素敵な相性になります。
ほかにデザート菓子として、アーモンドの焼き菓子や、栗のタルトなどを用意しておくと食後の時間がさらに豊かで楽しいものになります。



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