• トップ
  • >
  • 第47回 イタリアのバール 続編 バーカロ

第47回 イタリアのバール 続編 バーカロ

前回はイタリアのBARについて書きました。この回ではヴェネツィアのバール(バーカロ)についてお話します。
ヴェネツィアでは、ワインやプロセッコとおつまみで気軽に時間をすごすことのできる『Bacaroバーカロ』というヴェネツィア独特の居酒屋があります。今では80以上のバーカロがあり、運河沿いにひろがる迷路のような小路の角々にみつけることができます。



<--◆-->

酒の神バッカス(イタリア語ではバッコ)に語源を発するバッカナーレ(痛飲乱舞の酒席という意)、この言葉を聞いたヴェネツィアの酒場の主人が「バーカロ・グランデ」という店名で居酒屋を始めたのが起源という説もあります。
たいていは昼間から営業していて、ヴェネツィアならではの魚介を使ったチケッティ(一口サイズのつまみ)とグラスワインをオーダーします。レストランのように、ワインのボトルをオーダーする、とうよりは、その日の店主のお勧めワイン(数銘柄のワインはすでに栓が開けられている)やプロセッコ(ヴェネト州産のスパークリングワイン)の中から選びます。小さなテーブルがある店も多いですが、基本的にはBARと同じで、立ち飲みです。残念ながら私は見るチャンスがまだありませんが、朝から営業しているバーカロもあり、市場で働く人々が朝の仕事を終えて一杯、なんていう光景もみられるとのこと。ではバーカロにあるおつまみを紹介しましょう。



<--◆-->

おつまみと食事
Piatto misto di cicchetti vari おつまみ盛り合わせ
Baccala mantecato 干しダラのミルク煮
Sarde in saor いわしのマリネ
Capeloghe マテ貝のワイン蒸し
Selezione di pesce crudo marinato 新鮮魚介のマリネ
Saltata di cozze e vongole ムール貝とアサリのソテー
Spaghetti al nero di seppia イカ墨のスパゲッティ
Spaghetti con vongole veraci アサリのスパゲッティ
Risotto di mare 海の幸のリゾット
Frittura mista フリットミスト(揚げ物のミックス)
Fegato alla Veneziana ヴェネツィア風レバーの煮込み

ヴェネツィアで飲まれているワイン
<スパークリング>
Prosecco Valdobbiadene プロセッコ・ヴァルドッビアーデネ

<白ワイン>
Pinot Grigio ピノ・グリージョ
Muller Thurgau ミュラートゥールガウ
Soave Classico Superiore ソアーヴェ・クラッシコ・スペリオーレ
Riesling リースリング
Sauvignon ソーヴィニヨン

<赤ワイン>
Pinot Nero ピノ・ネロ
Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニヨン
Cabernet Franc カベルネ・フラン
Refosco レフォスコ
Merlot メルロー
Raboso del Veneto ラボーゾ・デル・ヴェネト



<--◆-->

サン・マルコ寺院から徒歩で20分程度のところにある、サンタ・マリア・フォルモーザ教会の裏手に、イタリアベストソムリエに選ばれたこともあるマウロ・ロレンツォン氏が経営するバーカロ「alla Mascaretaアッラ・マスカレータ」があります。ヴェネツィアへ着いた最初の晩に行ってみました。ゴンドラ一艙がようやく通るほどの小さな水路で降り、明かりもなにもない角を曲がっていったところにある、隠れ家のような店です。中は狭く入り口から近いカウンターのある方のテーブル席は8人も座ればいっぱいになります。
終店時間が深夜1時と聞いていたのに、1時を過ぎても尚、常連客が入ってきます。壁沿いには素晴らしい銘柄のワインがたくさんありましたが、グラスワインでも充分に美味しく、私も知らない地元のワイナリーのプロセッコをたくさん紹介してくれました。ここのカウンターで楽しそうに飲んでいた女性マヌエラさんもリアルト橋のそばのバーカロで勤務しているとのこと、とても評判だというので、翌日、早速ランチにでかけました。この「La Cantina ラ・カンティーナ」、昼間はマヌエラさんを含み女性二人で切り盛りしています。ランチではプロシュットとサラミの盛り合わせのみの1メニューなのに、ひっきりなしにお客様が入ってきてたちまち満席になりました。こちらもワインの品揃えが素晴らしく、ミラノやフィレンツェにあるレストランよりもずっと種類を多く持っているほどです。
ヴェネツィアではゴンドラで運河を周遊する以外は、どこへ行くのにも歩かなければなりません。歩き過ぎてちょっと疲れたら、街角のバーカロでワインを一杯というスタイルが街に馴染んでいます。



<--◆-->

最後に、ヴェネツィアの銘店「Harrys' Bar ハリーズ・バー」を紹介しましょう。1931年に開店したこの店は、ヘミングウエイを始め、歴史に残る著名人、そして今はハリウッドスターたちのお気に入りの店として世界中で有名です。バーと名乗っていますが、広びろとした2階席まであるレストラン。小イカのフリットや牛肉のカルパッチョ、海老のサンドイッチといった有名な料理がワインとともに、次々にテーブルへ運ばれていきますが、なんといってもこの店の名物は「ベッリーニ」というカクテルです。白桃の果汁をプロセッコで割ったものですが、ルネッサンス期のジョヴァンニ・ベッリーニという画家の作品の展示会が1948年にヴェネツィアで開催されたとき、ハリーズ・バーのオーナであるジュゼッペ・チプリアーニが、カクテルとして考案したとのこと。以前はすべて手作業で果汁を絞っていたそうですが、今はそれでは追いつかないので、この店専用に作られたフランス産冷凍の白桃ピューレを使用しているそうです。
ヴェネツィア滞在中、いろいろなバーカロに行きましたが、それぞれに店の個性がありました。もっとも微笑ましく感じられたことは、どのバーカロもレストランと比べると、地元のお客様がより多く、日本でいうところの近所の喫茶店で常連客達が集まり、他愛のない会話を楽しんでいるという感じです。もちろん中には有益な情報交換もあるでしょう。



<--◆-->




第48回 ワインの国際見本市 >>
壬生有香の「美食画報」 TOPへ >>
美通信 コンテンツ一覧へ  >>