第49回 ワイン偽造

つい最近になってワインの魅力に取りつかれたお客様の家で、購入されたワインセラーの納品に立ち会いました。この紳士は、2週間ほど前に香港で銘醸ボルドーワインをたくさん購入されたので、セラーが必要になったということでした。そのボトルは到着したばかりなのか玄関先に見慣れたシャトーの木箱の中に納まっていました。価格を聞いてみると、出回っている価格よりはかなり安くお得な感じがしましたが、香港での購入であるということを大変気にかけておられました。もうお分かりでしょう、偽物ではないかと心配されているのです。



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ワインの偽造については、最近になって多くの生産者たちが、本腰をいれて対策をこうじるようになってきました。なぜならば、フェイクワイン(偽造ワイン)は確実に増えているというのが本当だからです。
著名な絵画に贋作が存在し、高級ブランド品に偽物があるように、高額取引の対象となるヴィンテージワインには、以前から偽物が存在してきました。1本のワインが数十万円から100万円といった価値にまであがり、流通するとは考えられなかったため、それまでは」偽造防止策がほとんどとられてこなかったのです。
ワインの評論家によってつけられた得点数をもとに価値が評価され、特定な高級銘柄に買いオーダーが集中して価格が高騰するといった現象がおきてくるようになり、結果として偽物が製造されるようになったのでしょう。



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ワインジャーナルというワインの情報サイトを持っているニール・マーティン氏http://www.wine-journal.comのサイトによると、昨今の偽造ワインの出回り方は異常だとのこと。本コラムWine for Pleasure 第31回「ワインのオークション」の欄に、トーマス・ジェファーソン米元大統領が所有していたワインが偽物ではないか、とドイツの販売業者ハーディー・ローデンストック氏に対して訴訟を起こしたという話が小説になっている記事を書きました。
サザビーズや、クリスティーズといった世界的に高名なオークションハウスでも、偽造ワインについては認めざるを得ない事実下にあり、混乱状況にあると語っているそうです。
早くから問題になったのは、ボルドーの高級シャトーのブランドワインです。シャトー・マルゴー、シャトー・ディケム、シャトー・オーブリオン、シャトー・ラフィット、シャトー・ラトゥールなど、いずれも高価格のワインが標的にされています。特に生産量が少ないシャトー・ペトリュスは早くから偽造の標的になっており、オークションハウス・サザビーズのセレナ・サトクリフ氏によれば、1995年の1年間で落札された1945年ヴィンテージのシャトーペトリュスは、実際にシャトーで製造された本数よりも多かったと証言しています。



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現在出回っていると判明したボルドーワインの偽物は、シャトー・マルゴー、シャトーラフィットの1900年ヴィンテージ、シャトー・ムートン・ロチルドの1945年ヴィンテージ、シャトー・ペトリュスの1947年、1955年、1961年、1982年ヴィンテージ、シャトー・シュバルブランの1947年ヴィンテージなどが挙げられています。(ロンドン:アンティークワインカンパニー社の調査による)
ところが深刻にうけとめているであろうシャトー側の対応は、それほど騒ぎ立てたものでもないのです。というのは、偽造ワインについての訴訟を起こすと、たちまちのうちに我がセラーにあるものは本物かどうか?といった疑念を消費者に抱かせ、ブランドにマイナスイメージが付き、売れ行きにも多大な影響が及ぶため、公表することに二の足を踏む生産業者が少なくないのです。ボルドーには組織的に偽造ものを生産する詐欺集団も存在するといった一説もあります。シャトーが見て見ぬふりをせざるを得ないところに付け込まれているのでしょうか。



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フェイクワインといえばボルドーの高級シャトーであったところが、近年になってイタリアワインでも起こり得る事実となってきました。
スーパー・トスカーナとして有名な「オルネッライア」の輸出部長とよく話す機会がありますが、昨年、彼が来日した際、オルネッライア社では、偽造防止のためと、最終コンシューマーまで彼らが管理できるようにするために、ボトルにある工作(マイクロチップが埋め込まれている)がなされている、と話していました。オルネッライアは最新の若いヴィンテージでも2万円以上するワインです。ボルドーのシャトーワインと同様の対策をとっているということです。スーパー・トスカーナの別メーカー、サッシカイアについては、2005年に2万本の偽ワインが押収されたニュースが記憶に新しいところです。



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イタリアでは一連の偽造詐欺に対抗するため、原産地呼称ワインに貼付されている認定ラベルを一新し、さらに貼り方についても再利用不可能にするためのルールを行政通達しました。
新しい政府認定のラベルには、ホログラムが入っており、すべての原産地呼称ワインに貼付するよう義務付けられます。今までは、DOCGワインは薄赤い柄でしたが、新ラベルではスミレ色に、DOCワインは緑色に変わりました。
このほか、トレサービリィ(物品の流通経路追跡)をより明確に、容易にするための英数字で組み合わされたコードと、容器のサイズが明記されているとのことです。この新ラベルは現代の技術をもってしても複製は難しく偽造対策には有効、との発表をしたそうです。 
また米国では、オレゴン州ポートランドに本拠地をおく「ブランドウォッチ・テクノロジーズ」社と「フランス」の「プルーフタグ」というセキュリティ企業が提携して、ワイン偽造品対策ツールを開発。特殊なシールをワインボトルに貼り、アプリをダウンロードしたiPhoneのカメラやオリジナルのリーダーによって来歴を読み取ることができる製品だということです。



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