第8回コルクのお話

コルクはギリシャ時代からワインを入れる容器の栓として使われてきました。コルクは軽く、清潔で水を通さず、しかしきめ細かな気孔からほんのわずかに空気だけを通しワインがゆっくりと熟成する手助けをします。造られてから一度も醸造元を出たことのない良質なワインは、通常20年ぐらいを目安にコルクを詰め替えます。この作業をリコルクと言って、目減りした分を若いワイン(醸造元内の同じ銘柄)で補充することもあります。
上質のコルクはスペインやポルトガルで生育するコルク樫の樹皮でできていて、樹齢30年を超えた樹から剥がされます。その後半年ほど乾燥させ殺菌処理をし、数週間の熟成を経て裁断され栓の形に型抜きされたあと、醸造所の文字などを印刷して出来上がります。一般的に高級ワインに仕様されるコルクは上質で、径が太く長さがありなめらかで皮目が少なく、質のよくないものは短く皮目が多いのです。さらに安物のコルクは粉末と切り屑を寄せ固めて作られていることもあります。
コルクが健全な状態で年数を経過するためには乾燥することから回避するのが一番ですが、これにはコルクが中身のワインと常に接していなければならず、ボトルを保存するときに横に倒しておくのはこのためです。



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ワインを抜栓したときにワイン以外の、不快な、ダンボールが湿ったような匂いがすることがあります。これはいわゆる「コルク臭がついた」もので、健全なコルクではなく、変質したコルクの匂いがワインについてしまったものです。悪臭の原因は、トリクロロアニソールという化合物。こうした状態のワインを専門家は「ブショネ」または「コークドゥ」といい、ソムリエはこの匂いに敏感でなければなりません。決してお客さまにサーヴィスできるものではないからです。もしもソムリエのチェックがなく、まちがってあなたのテーブルに出されたのであれば、交換してもらってよいのです。
"ブショネ"のワインがあたる確立は非常に少ないのですが、それでも飲む機会が多くなればなるほど遭遇する確立も高くなるわけです。しかしこれは醸造元も輸入業者もそしてレストランのソムリエでさえも、開ける前に見分ける方法はなく、もしあたってしまったら残念だとしかいいようがありません。そして"ブショネ"はワインが若い、古いことには関係がないものです。
こうした不慮の事態を防ぐこと、そして環境保護の問題からも、最近はコルク栓のかわりに人工コルクやスクリューキャップも登場しています。しかし現在のところボルドーやブルゴーニュなどの高級ワインにはあまり使われません。人工コルクは熟成を必要としない早飲みタイプのワインに多く使われ、長期間熟成したほうが価値の上がるワインには使われてないようです。
健全な状態で保存されたワインの瓶口に入っている少し湿り気を帯びたソフトなコルク栓にスクリューを刺し込み、息を止め静かにゆっくりと引き上げるあの瞬間は、次にグラスに広がる素晴らしい芳香を想像させる魅惑のひとときでもあります。そしてこの神聖なる作業のために私はお気に入りのソムリエナイフを集めています。コルク栓の上手な抜き方は次回のお話にいたしましょう。





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